1933 雨音に紛れるは、
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黒い空に一瞬光が走ると続けて耳をつんざくような音が鳴り響く。風が吹いていないため傘をさしていれば服が濡れる心配はないが、どうしたってスーツの裾は防ぎようがない。辺りの建物は停電で真っ暗だが街灯の火のお陰で道は照らされている。
「ただいま」
傘の水気を払いながら鍵を開けて家に入る。部屋に灯りはなく、そういえばユウにロウソクの場所は教えていなかったと僅かに濡れた服をハンカチで払いながら眉を寄せた。
…それにしても。ユウの性格を考えれば半泣きで駆け寄ってきてもいいものだが、中からは物音ひとつしない。聞こえるのは雨の音と地響きすらするほどの雷の音。
「…もしかして」
寝室を覗いたがもぬけの殻。リビングに戻りテーブルの下やソファーの裏を探してもいない。キッチン、洗面所や風呂場も覗いたがその姿はない。今日は1日中雨だった。濡れた靴が廊下に置いてあったしユウが今朝持っていた鞄もソファーにあったことから家にいるのは間違いないのだが。
残りは…ここしかない。ネクタイを緩めながらクローゼットを開けると、シーツを頭から被り膝を抱えて丸くなっている物体を見つけた。
顔を埋め耳を塞いでいるため私にはまだ気づいていないようだ。私は苦笑するとその前に腰を下ろして
袖のボタンを外した。その間にまた空が光り轟音が。ユウはその音にびくりと身体を跳ねさせ、力の込められたシーツが皺を作った。
「っ…ふぇ……ラックさん…」
「……、」
思わず目を瞬く。早く帰ってきて、と。消え入りそうな声がもう一度私の名前を呼んだ。
…もしかして、彼女はずっとこうして私の名前を呼んでいたのだろうか。暗くて分からなかったが、よく見れば彼女の被っているシーツから覗いているのは私のシャツだ。
思わず漏れた笑いをこらえながら愛おしさに目を細める。私はこんなにも彼女にとっての拠り所となれているのだと、改めて実感させられたのだから。
「ユウ」
呼び掛けても声は届かない。白いシーツからこぼれた黒髪を掬い上げると、彼女は肩を竦め勢い良く顔を上げた。
「ユウ」
「―……っ…」
眉が下がりきゅっと結ばれた唇。再び光った空がクローゼットから出てきたユウの影を写し出す。
胸に飛び込んで来た彼女を抱き締めると地面を貫くような音が鳴り、ユウが小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。
「ただいま」
「っ…おかえりなさい…!」
シーツごと抱き締めた彼女はとても温かかった。私に抱きついたことでそれまで抱き締めていた私のシャツとテディベアが転がったのを見て苦笑する。
抱き締めたまま頭を撫でながらキスを落とした。ぎゅっと背中に回された力の強さにどれだけ彼女が不安だったかが窺える。
「雷雨でも、私はきちんと帰ってきたでしょう?」
「ん…」
「まさか雷に打たれないかとか心配してないですよね?」
「…した」
「したんですか」
私が笑うと恥ずかしかったのか更に胸へと顔を埋めたユウは、しばらくするとおずおずと顔を上げた。
「少し、遠くなった?」
「そうですね」
遠くなったとは言え落ちれば凄まじい音がする。再びシーツの奥に顔を引っ込めてしまったユウはまるでカメのようだ。
「うぅー…」
怖い、と泣きそうな声で呟いたユウにどうにか気を逸らしてやれないかと思案する。きっとこのままでは眠れないのだろうし、止むまで甲羅から出て来なそうだ。
「ユウ」
呼べばそろそろと顔を出して窓を窺うユウに笑い、まずは額、そこからこめかみ、目尻へとキスを落とし、最後に耳を食んだ。
「んっ…あの、ラックさ……んうっ」
顎を上げさせ唇を合わせれば彼女は突然のことに頭が追い付いていないようで、私のスーツを握る手に力が入る。
「ん……ふあ…」
口づけを深くすれば酸素を取り入れようとする様子に唇を離した。直後鳴り響いた雷に肩を上げるユウは、安心したり赤くなったり驚いたりとまったく忙しい。
そういえば…今日は彼女に土産品があったのだったと背広のポケットから小さな包みを取り出す。その中から出したチョコレートの包装を剥いて不思議そうにそれを見ていたユウの唇に押し当てた。
「今日戴いたんですよ。ベルギーのチョコレートだそうです」
はむりと口に入れたユウが幸せそうに顔を綻ばせる。美味しい、と嬉しそうな声以上に表情がそれを物語っている。
もうひとつ包装を剥いてやれば目を輝かせたユウが可愛くて、つい意地悪をしたくなってしまった。
「ん、むっ…!?」
ユウの口へと転がしたチョコレートを追いかけて唇を重ね舌を差し込む。二つの舌の間でチョコレートはみるみる溶けていき、逃げようとする頭を押さえて更に深く舌を絡める。
こく、と互いに唾液を飲み込む頃にはチョコレートは形を失い、羞恥心からか真っ赤になった彼女の耳の縁を指でなぞれば鼻から抜けたような声が小さく漏れた。
その間にも二回ほど雷が鳴ったがユウは反応せず、気を逸らすことには成功したらしい。
ただ…ひとつだけ問題が起きた。
「ふあ…っ、はあ、は…っ」
肩で息をするユウの目尻に唇を寄せてユウを呼ぶ。頬を染め大きな黒目を潤ませて睨め上げてくるのはわざとではないのはよく分かっているのだが、それも今は私を煽るものでしかなく。
「すみませんが…止められなくなりました」
「…へ?」
「まあ、つまりは…」
ネクタイを抜き取り床に放る。抱き上げた彼女をベッドへと移し逃げる前に乗り上げた。
「こういうことです」
「っ……!!」
いつの間にか雷はかなり遠くなっている。逃げ道を探しているユウの顔の横へと手をつき、私はその赤く染まった耳へと囁いた。
「電気は…何時つくんでしょうね?」
抗議のために開かれた唇を塞ぎ、胸を叩く腕は構わず受け止める。その内甘い吐息を漏らし力なく私のシャツを握ってくるのが、たまらなく可愛かった。
雨音に紛れるは、
(名前を呼ぶ、甘い声)
.
「ただいま」
傘の水気を払いながら鍵を開けて家に入る。部屋に灯りはなく、そういえばユウにロウソクの場所は教えていなかったと僅かに濡れた服をハンカチで払いながら眉を寄せた。
…それにしても。ユウの性格を考えれば半泣きで駆け寄ってきてもいいものだが、中からは物音ひとつしない。聞こえるのは雨の音と地響きすらするほどの雷の音。
「…もしかして」
寝室を覗いたがもぬけの殻。リビングに戻りテーブルの下やソファーの裏を探してもいない。キッチン、洗面所や風呂場も覗いたがその姿はない。今日は1日中雨だった。濡れた靴が廊下に置いてあったしユウが今朝持っていた鞄もソファーにあったことから家にいるのは間違いないのだが。
残りは…ここしかない。ネクタイを緩めながらクローゼットを開けると、シーツを頭から被り膝を抱えて丸くなっている物体を見つけた。
顔を埋め耳を塞いでいるため私にはまだ気づいていないようだ。私は苦笑するとその前に腰を下ろして
袖のボタンを外した。その間にまた空が光り轟音が。ユウはその音にびくりと身体を跳ねさせ、力の込められたシーツが皺を作った。
「っ…ふぇ……ラックさん…」
「……、」
思わず目を瞬く。早く帰ってきて、と。消え入りそうな声がもう一度私の名前を呼んだ。
…もしかして、彼女はずっとこうして私の名前を呼んでいたのだろうか。暗くて分からなかったが、よく見れば彼女の被っているシーツから覗いているのは私のシャツだ。
思わず漏れた笑いをこらえながら愛おしさに目を細める。私はこんなにも彼女にとっての拠り所となれているのだと、改めて実感させられたのだから。
「ユウ」
呼び掛けても声は届かない。白いシーツからこぼれた黒髪を掬い上げると、彼女は肩を竦め勢い良く顔を上げた。
「ユウ」
「―……っ…」
眉が下がりきゅっと結ばれた唇。再び光った空がクローゼットから出てきたユウの影を写し出す。
胸に飛び込んで来た彼女を抱き締めると地面を貫くような音が鳴り、ユウが小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。
「ただいま」
「っ…おかえりなさい…!」
シーツごと抱き締めた彼女はとても温かかった。私に抱きついたことでそれまで抱き締めていた私のシャツとテディベアが転がったのを見て苦笑する。
抱き締めたまま頭を撫でながらキスを落とした。ぎゅっと背中に回された力の強さにどれだけ彼女が不安だったかが窺える。
「雷雨でも、私はきちんと帰ってきたでしょう?」
「ん…」
「まさか雷に打たれないかとか心配してないですよね?」
「…した」
「したんですか」
私が笑うと恥ずかしかったのか更に胸へと顔を埋めたユウは、しばらくするとおずおずと顔を上げた。
「少し、遠くなった?」
「そうですね」
遠くなったとは言え落ちれば凄まじい音がする。再びシーツの奥に顔を引っ込めてしまったユウはまるでカメのようだ。
「うぅー…」
怖い、と泣きそうな声で呟いたユウにどうにか気を逸らしてやれないかと思案する。きっとこのままでは眠れないのだろうし、止むまで甲羅から出て来なそうだ。
「ユウ」
呼べばそろそろと顔を出して窓を窺うユウに笑い、まずは額、そこからこめかみ、目尻へとキスを落とし、最後に耳を食んだ。
「んっ…あの、ラックさ……んうっ」
顎を上げさせ唇を合わせれば彼女は突然のことに頭が追い付いていないようで、私のスーツを握る手に力が入る。
「ん……ふあ…」
口づけを深くすれば酸素を取り入れようとする様子に唇を離した。直後鳴り響いた雷に肩を上げるユウは、安心したり赤くなったり驚いたりとまったく忙しい。
そういえば…今日は彼女に土産品があったのだったと背広のポケットから小さな包みを取り出す。その中から出したチョコレートの包装を剥いて不思議そうにそれを見ていたユウの唇に押し当てた。
「今日戴いたんですよ。ベルギーのチョコレートだそうです」
はむりと口に入れたユウが幸せそうに顔を綻ばせる。美味しい、と嬉しそうな声以上に表情がそれを物語っている。
もうひとつ包装を剥いてやれば目を輝かせたユウが可愛くて、つい意地悪をしたくなってしまった。
「ん、むっ…!?」
ユウの口へと転がしたチョコレートを追いかけて唇を重ね舌を差し込む。二つの舌の間でチョコレートはみるみる溶けていき、逃げようとする頭を押さえて更に深く舌を絡める。
こく、と互いに唾液を飲み込む頃にはチョコレートは形を失い、羞恥心からか真っ赤になった彼女の耳の縁を指でなぞれば鼻から抜けたような声が小さく漏れた。
その間にも二回ほど雷が鳴ったがユウは反応せず、気を逸らすことには成功したらしい。
ただ…ひとつだけ問題が起きた。
「ふあ…っ、はあ、は…っ」
肩で息をするユウの目尻に唇を寄せてユウを呼ぶ。頬を染め大きな黒目を潤ませて睨め上げてくるのはわざとではないのはよく分かっているのだが、それも今は私を煽るものでしかなく。
「すみませんが…止められなくなりました」
「…へ?」
「まあ、つまりは…」
ネクタイを抜き取り床に放る。抱き上げた彼女をベッドへと移し逃げる前に乗り上げた。
「こういうことです」
「っ……!!」
いつの間にか雷はかなり遠くなっている。逃げ道を探しているユウの顔の横へと手をつき、私はその赤く染まった耳へと囁いた。
「電気は…何時つくんでしょうね?」
抗議のために開かれた唇を塞ぎ、胸を叩く腕は構わず受け止める。その内甘い吐息を漏らし力なく私のシャツを握ってくるのが、たまらなく可愛かった。
雨音に紛れるは、
(名前を呼ぶ、甘い声)
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