1932 相合い傘で参りましょう
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6月も半ばになると、ユウは朝窓を開けては嬉しそうに空を見る。雨の日は残念そうな顔をするものの、次の日止めばまたすぐに機嫌は戻る。
「‥何がそんなに嬉しいんですか?」
彼女は雨が嫌いだから晴れの日が続けば嬉しいのだろうが、それにしても6月に入ってから目に見えて機嫌がいい。
「だって6月だよ?日本なら梅雨だよ?」
「ツユ‥?」
「日本にはね、夏の前に毎年梅雨って言う雨の時期が来るの。1ヶ月ちょっとくらいかな‥毎日毎日雨と曇りたまーに晴れ」
それは‥雨嫌いな彼女にとっては嫌な時期だろう。
「日本は湿気が多いから梅雨の時期はじめじめして‥」
「ジメジメ‥」
ユウは‥というより日本には擬態語が多い。ユウはよくそれを使うが私たちには理解できないものが多く、お互い首を傾げるはめになるのだ。
「じめじめは、うーん‥‥炎天下で全身に湯気を浴びてる感じ‥?焼かれると言うより、蒸される感じ‥」
そんな時彼女は懸命に説明してくれるのだが、その例えが何とも独特でしかし分かりやすい。
「それは気持ち悪いでしょうね」
「あ、分かった?そうなの!それに洗濯物は室内に干さなきゃならないからにおうし、髪はうねったり広がったりするし、靴は濡れるし!」
ヒートアップしていく彼女に苦笑して宥めるように頭を撫でる。
「でも‥雨が降らないと作物も育たないし、生活にも影響したりするし必要なのも分かるんだよ。分かるけど‥」
唇を尖らせ、俯いてしまったユウの言葉を待つ。ユウは一度晴れた空を見上げ、寄りかかるように私の胸に頭をもたげた。
「‥やっぱり雨はいや。梅雨の時期は毎朝暗いの。冬の朝みたいに」
暗くて、雨が降っていて。朝から嫌な気分になるのだと、彼女は言った。
「‥きっとそのうち、梅雨が懐かしくなりますよ」
「懐かしく‥?」
「ええ。アメリカに梅雨はありませんから。ユウにとって、梅雨の時期にいいことはひとつもないんですか?」
考えるように黙り込んだ彼女は、ぽつりぽつりと言葉を溢す。
「‥梅雨の時期になると、可愛い傘がいっぱい出るよ」
「あとは?」
「ショップバックが雨の日限定のだったりとか」
「ええ」
「紫陽花っていう綺麗な花が咲くの」
「では‥それが懐かしくなったら、日本に行きましょう」
目を丸くして振り返ったユウは、じっと私を見詰めるとじわりと涙を浮かべて小さく頷く。私が笑って額にキスを落とせば、飛び付いてきた彼女を抱き止めた。
「‥ありがとう、ラックさん」
相合い傘で参りましょう
(でも‥ラックさんも梅雨嫌いだと思うなぁ)
(何故ですか?)
(うーん、髪質的に‥?)
(‥‥?)
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