1932 女心とは
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「で、お前は何悩んでんだ。ユウはどうした?」
「‥‥‥‥」
「ああ‥何か怒らせたみたいで先に帰ったよ」
「何だそりゃ」
他人事のようなその言葉に少しむっとしたけれど、そのまま大人しく聞くことにする。
「だからその理由を今考えてたんだ。正直に言ってほしいって言うからその通りに答えたら怒って出ていってしまって‥」
「あ‥?俺もあったな、んなこと。初めてカリアの手料理食った時『正直な感想を』っつーから不味いっつったら一週間連絡来なくなってよォ」
「‥‥‥」
それは‥正直にとは言っても怒ると思う。もうちょっとこう、言い方とか‥
「そういやお前らこの間も喧嘩してなかったか?」
「‥この間のは‥ユウが道を歩いてる時に女性を指してスタイルを褒めたんだ。それで『ああなりたい』って言うから、ユウはもう身体の出来上がった年齢だし身長的なことを含めて厳しいんじゃないかって言ったら口を聞いてもらえなくなった」
まさか‥あの答えにそんな意味まで含まれていたなんて。じっと彼女を見つめたかと思うと私を見て真剣な顔で「‥厳しいかと」なんて言うから本気で落ち込んだのだけど。
第一ああなりたいっていうのはその通りの意味じゃなくて羨望の意味というか、一般人がモデルさんを見て言うのと同じっていうか‥
「まあもう伸びねえだろ普通に考えて。何が悪かったんだ?」
「さあ‥」
「‥‥‥」
‥‥もしかしてこの兄弟‥ものすごく女心に疎いんじゃ‥?
考えてみれば、とにかく厳しく男気質のこの環境。三人共特に女の人に興味があるわけでもなさそうだし、三人に特別限ったことじゃなく男の人は女心というものが理解できないらしい。
それを考えると、さっきのをラックさんに理解しろというのは酷にも思えてきた。
でも言わなくても分かってほしいというのが女心で。
悶々と考えていると、構成員の人に呼ばれてラックさんとベルガさんが部屋を出ていった。
私はデスクの下から這い出てスカートの埃を落とすと、ドアを見つめてからため息を吐く。
「ラックさんもベルガさんも、正直すぎるんです。もう‥全然分かってない」
むうっと唇を尖らせると、宥めるように頭を撫でられる。
「あんなに考えたって‥正しい答えなんてないのに。女の子の気持ちは気まぐれですぐに変わるんです」
例えば、ご飯を作ってそれを食べた彼が『美味しい』と言ってくれた。それで満足する時もあれば、自分の頑張った気持ちが大きい日なんかは『それだけ?』なんて思ってむっとしてしまったりして。
日本には“女心と秋の空”なんて言葉があるくらいだ。いちいち真剣に考えていても埒があかないのに。
ラックさんはここで十分以上もあの時私が怒った理由を考えていたのだ。理解してくれようと仕事そっちのけで。それを思うと愛を感じてきゅうっと胸が締め付けられる。
「‥ああいう真面目なところ、すごく好きです」
頬が熱くなるのを感じながら僅かに俯けば、今度はいい子いい子とばかりに押し撫でられ私は黙ってそれを受け入れる。キースさんのなでなではその手から感情が伝わってくるようで好きだ。
「キー兄、この間言ってた‥‥ユウ‥?」
振り返ればノブを掴んだまま目を丸くしているラックさん。
「いつの間に戻って来たんですか?」
私は一度キースさんに視線をやってから、忘れ物を取りに来たのだと本を鞄に仕舞いながらドアの前に立ったままどこか気まずそうな顔をしているラックさんに近付いた。
「‥美味しいごはん、作って待ってるから早く帰ってきてね?」
「は‥‥」
「キースさんは問題ないとして‥ベルガさんもしっかり帰してね」
私が覗き込めば、よく事態を飲み込めていないらしいラックさんが頷く。
「ユウ、さっきのことですが‥」
「ねぇ、ラックさんは‥私のこと好き?」
「‥‥当たり前でしょう」
怪奇そうな表情に笑って、キースさんに手を振って部屋を出る。
出口への階段を上がっているところで、追いかけてきたラックさんに呼び止められた。
何か言いたげに私を見上げ、「いや、」と首を振ったラックさんは伸ばした手で私の頬を包み髪を梳く。
「‥今日は、早く帰ります」
「うん!」
不器用で、女心には殊更疎い。でも、いつでも真っ直ぐに私のことを考えてくれる人。
またひとつ、ラックさんの可愛いところを見付けられた。女心も少しは分かってほしいけど‥今回は、それでよしとしましょう。
そういうものなのです。
(はい、コート。カリア義姉さんには今から帰るって電話しておいたから)
(あ!?何で勝手にンなこと――)
(よく分かんないけどユウがそうしろって)
(お前ら喧嘩してたんだろうが!)
(‥よく分かんないけど機嫌直ってた)
(ハァ?訳分かんねぇな女っつーのは)
(‥‥‥‥‥)
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