1935 教訓その一、
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「おかえりなさい」
出迎えに出るとびしょ濡れになったラックさんに目を丸くする。
「雨降ってた?」
「ついさっき降り始めたんですよ。ほら」
ドアを少し開けると音が入り込んでくる。気付かなかった。
「あっ、もうすぐお風呂いっぱいになるよ?」
バスルームに向かって様子を覗けばちょうどいい頃合いだ。
脱衣所でシャツをカゴに放りこんでいるラックさんと目が合うと、ラックさんは不意に考える素振りを見せて。
「一緒に入りますか?」
ごんっと驚いて下がった拍子に頭をぶつける。ラックさんは私が動揺しているのを見て面白がっているんだ。分かってるんだから!
「大丈夫ですか?」
クスクスと笑っているラックさんに、私はどうにか反撃したくて。
「は‥入る!」
「‥‥はい?」
「お風呂‥入る」
「‥‥一緒に?」
頷くと、ラックさんは驚いたようにじっと私を凝視したあと。
肩を揺らしながら「なら先に入ってます」と私を着替えの準備に一度脱衣所から出した。
その時鏡に写って見えた私の顔は正に茹で蛸のように真っ赤になっていて、今にも湯気が出てきそうなほどで。
心が折れそうになりながらもタオルを巻いてドアを開ければ、振り返ろうとしたラックさんを慌て止める。
「だめっ!目瞑っててね?絶対だよ?」
「もう何度も見‥」
「にゃあああっ」
ばちゃんとお湯をラックさんにかける。湯船にゆっくり足をつけ体を沈めてから開けてもいいよと告げた。
「‥そんなに目一杯離れなくても」
「だって‥恥ずかしいもん」
「入ると言ったのは貴女ですよ?」
ブクブクとお湯に鼻下まで沈む。ラックさんはクツリと笑うと手を伸ばして、私を引き寄せた。
お湯が溢れ、密着した肌に羞恥が沸く。
「うぅぅ‥」
「本当に慣れませんね。まあ‥そこが貴女らしくて可愛いのですが」
額にキスが降る。だって、だってラックさんが!濡れた髪とか、私よりもずっとがっしりした肩とか、滴の伝う鎖骨とか‥い、色っぽくてちゃんとなんて見られないんだもん。
内心言い訳を並べていると顎を掬われ口付けられる。
「ん、だ、だめっ」
「‥何故?」
「お風呂でキスされると、その、すぐのぼせちゃう‥から」
前回なんて気が付いたらベッドの上だった。あれはもういやだ。服くらい自分で着たい。
「構いませんよ?」
「私が構うの!」
抗議すればラックさんは諦めたように顎から手を離してくれた。
私はくるりと向きを変えてラックさんに寄りかかり、胸に頭を預ける。これなら落ち着く。
「‥ですが、ユウも慣れたと言えば慣れましたよね。これでも」
「それは‥私だって進歩します」
初めて一緒に入った時は‥それはもう緊張して。それこそラックさんから言わせれば“初めて見るわけではない”のに、私は緊張のあまり浴槽の端に張り付いたまま動かなくて‥あのラックさんが「笑い死ぬ」とまで言ったのだ。
「‥忘れたい」
「私は一生忘れませんよ」
思い出したのかまた笑っている。ごつりと頭で攻撃を加えておいた。
「ユウ」
むつけながらも顔だけで振り返れば、頬に手が回され唇が重ねられる。
「やはり我慢するのはやめました」
「ふ!?」
いきなり舌が侵入してきたので驚いて目を見張る。私が舌を引っ込めれば僅かにラックさんの眉間に皺が寄り、あっという間に絡め取られてしまった。
「は‥あっ‥」
体勢的にも苦しくて、やっぱりいつもより頭が霞みがかるのも早い。
そんな時タオル越しに胸へと上がってきた手に我に返り慌てて掴んだ。
「な、なななに‥」
「‥‥‥‥」
そんな目で見てもだめ!か、可愛い‥けど、だめなものはだめ!
「風呂場は‥声が響きますよね」
「う、ん‥?」
急に何の話‥?首を傾げながらも必死にラックさんの会話についていく。
「余り声を出すと隣に聞こえてしまいます」
「よっぽど大きい声を出せばね‥?」
だから一体何の話をして‥
「どうしても我慢できなくなったら‥唇で塞げばいい」
な‥何か。ラックさんの目が、何て言うか、
「私としては‥聞きたいですが」
危ない‥!細められた瞳に逃げようとした時には既に遅く。
「んぅ‥や、あっ‥!?」
一度唇を合わせてから首筋へと舌が這う。こ‥ここお風呂なのに‥!!
「ふ‥ラック、さんっ」
「何ですか?」
「おおお風呂は、や‥」
必死の訴えにラックさんが動きを止める。かと思えば首筋を舐め上げられて息がもれた。
「聞こえない」
低い声が耳元で囁く。
明らかに楽しんでいるそれに抗議しようとラックさんの方を向けば。
「ユウ。男は焦らされるほど‥凶暴になる生き物なんですよ」
「ひっ‥!?」
そこには、獰猛な狼さんがいました。
教訓:出来ない反撃はしない。
(なあ、ユウ昨日――)
(ガタガタッガシャンパリーン!)
(な、なななんですか?フィーロさん)
(お、おい大丈夫か?昨日ロニーさんから伝言があったんだが‥)
(何だ?ユウのやつ‥何かあったのか?おい、ラック?)
(ぶっ‥‥くくくっ‥意識、しすぎ‥)
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