10.祝福を受ける少女は左手に誓う
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***
「ねぇねぇ、ユウはラックの恋人なの?」
少し用があって事務所に寄ったら、この間の一件以来仲間になったらしい殺し屋(ここでの役割はジャズホールの用心棒兼踊り子)のマリアちゃんに声をかけられた。
「えと、あの‥?」
それも何故か物凄く至近距離から。
思わず後ずさるとずいずいと顔を近づけられて、流されるままに後ろに下がればどんっと背がぶつかった。
「どうして逃げるの?アミーゴ!」
「‥‥‥」
「あっ‥ニコさん、ごめんなさい!」
振り仰げば、幹部であるニコさんが眉を寄せて立っている。
「‥おい新入り。嬢を困らせるな」
「だってだって、気にならない?ラックは怒りんぼなのに、ユウはどこがよかったの?」
「ラックさん‥怒りんぼですか?」
マリアちゃんがその場を動いてくれないので、未だサンドイッチ状態だ。
そのまま質問をニコさんに流すと、俺に聞くなとため息をつかれた。
「新入り、まずはそこを退け」
「嫌だよアミーゴ!ユウが逃げちゃう!」
「‥‥それは貴女が鞘から抜いた状態で刀を持っているからでしょう」
低い声が聞こえた。そっと扉を見やれば腕を組んだまま笑みを浮かべているラックさん。
だけど、何て言うか、目が据わってる‥?
「あっ、手入れの途中だったんだ。でも怖がることないよアミーゴ!ユウは切らないから!」
「当たり前です。ユウに傷一つでもつければ追い出しますよ」
二人が言い合っている間に体が離れて、ニコさんと共に解放される。
「苦しくなかったですか‥?ごめんなさい」
「いや」
「あっ、これからお出かけだったんですね‥!いってらっしゃい、気を付けてくださいね」
コートを手にしたニコさんを見送ったところでチックさんからのお茶のお誘いを受け、それを聞いたマリアちゃんが飛び付いてきた。
「お菓子は!?」
「わっ、あ、ありますよ?頂き物なんですけど食べきれないので持ってきました」
「マリアさん!まだ話は終わって‥」
「固いこと言わないでよアミーゴ!ユウ早く行こ!」
「あ、わっ‥」
腕を掴まれ転びそうになりながらなんとか振り返る。
盛大なため息をつくラックさんに、マリアちゃんが来てから随分賑やかになったなあと思った。
夜は上のジャズホールで食事を取って9時過ぎに家に帰宅。
そこでの話題はマリアちゃんについてで、彼女には気を付けてくださいとげんなりしているラックさんに苦笑した。
ラックさんがお風呂に入っている間に残っていた家事を済ませていると、ラックさんの替えのシャツを出し忘れていることに気が付いて。
「ラックさん、シャツ‥」
「ああ、すみません。今取りに行こうと‥」
バスルームに向かおうとして、廊下に出てきたその姿にぴたりと足を止める。
上半身裸のまま濡れた髪を鬱陶し気に掻き上げるその姿に、思わず背を向け壁にくっついた。
胸が、ものすごくうるさい。ぎゅうっとシャツを抱き締めるようにして目を閉じながら、必死に収まれ収まれと自分に言い聞かせる。
「‥どうしました?」
「っ‥‥!!」
後ろから抱き寄せられて息が止まった。
その声色にからかいが含まれているのは気付いているけれど今の私にはそれどころではない。
お風呂上がりでいつもより高い体温が、自分の着る服越しに直接感じられて。
「し、シャツ、着て‥っ」
「そう言われても‥ユウが持っているんですが」
「!!」
くるりと振り向いてシャツを押し付ける。
クスクスと笑いながらシャツを羽織ったラックさんは、未だ自分と格闘していた私の頬に手を添えて私を見下ろした。
「いい加減慣れては?」
一緒に住んでいれば当然、着替えやお風呂上がりに裸を見ることはあった。だけど。
「むっ、無理です‥!だって、」
「だって?」
私が慌てて口を塞ぐとラックさんが目を細め、腕に座らせるように私を抱き上げた。
「ひゃあ!」
「‥だって?」
私の方が高くなった視線。ラックさんは私を見上げ、ふっと意地悪な笑みを浮かべた。
これがどういう意味なのかは知ってる。‥言わないと下ろしてもらえない。
「だっ、て‥‥す、すごく、その、」
「はい」
「‥‥色っぽい‥から」
顔を見ていられなくて視線を逸らせば、ラックさんの手が私の髪を絡め取る。
私はくすぐったさにきゅっと身を竦めて、彼の肩に置いた羞恥に震える指先を握りしめた。
「色っぽいのは‥貴女の方なんですけどね」
「ん――‥っ!?」
顎を掴まれ下を向かされると噛みつくようにして唇が塞がれた。
「ふ‥っ」
いきなり侵入してきた舌にラックさんのシャツを握る。
肩に置いた手で突っ張ろうにも後ろは壁。だんだんと壁に押し付けられるようにしてなされるキスは荒々しくて、酸欠も加わり何も考えられなくなる。
唇が離されてもぼんやりと酸素を取り入れていれば、首筋に顔を埋められくすぐったさに身を捩った。
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