10.祝福を受ける少女は左手に誓う
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「‥‥ん‥」
意識が持ち上がる感覚に目蓋を上げた。
カーテンから僅かに漏れる光で夜が明けたのは分かったけれど、外はまだ静かで動き出すには早い時間なのだとぼんやり思う。
聞こえる寝息に視線を上げれば穏やかなラックさんの寝顔があって、腕に頭を乗せ抱き締められるように眠っている私は、改めて幸せな気持ちを噛み締めた。
もう一度眠ろうと額を彼の胸に埋めるように擦り付ければ、身じろぎながら髪を梳くように頭を撫でてくれて。
そっと見上げると目を覚ましたわけではないようで、そのまま抱き寄せるようにして再び寝息を立て始めたラックさんに頬が弛んだ。
「(携帯があれば写真撮ったのになぁ‥)」
不意にそう思ってから、私もここの生活に馴染んだものだとしみじみ感じる。
携帯だってテレビだって、他にも色々と普段生活していてあったらいいのにと思ったことは何度もあった。
けど、ないものはない。そう割り切るしかないのだ。
目蓋が落ちてくる。うとうとと、落ちていく意識の中で、ずっと考えないようにしていた不安が過った。
「(これから‥戦争が起きるんだよね‥‥そしたら日本は‥――)」
**
「‥ふむ、何を不安がっているかと思えば‥‥確かに一人の人間が背負うには重すぎる記憶だな」
こめかみに人差し指を当てていたロニーは閉じていた目を開けると酒を手に取った。
戦争などユウが結末を知っていたとしてどうにかなるものではない。
ロニーさえ動いたとしてどうにかできるのは一握りの流れだけだ。
だが、ユウの知識は力あるものからすれば喉から手が出るほど欲しいものでもある。
邪魔な存在にも利用出来る存在にもなり得、それこそ各国が欲しがるだろう。
ユウのことだ、このまま戦争を体験すれば確実に『知っていたのに何もできなかった、沢山の人を死なせてしまった』と苦しむに決まっている――ロニーは呆れたような笑みを浮かべグラスを煽った。
全く、人間一人ごときに世界を救う力などないというのに。
きっとそれはユウに耐え難い傷を与え、苦しめ続けるのだろう。ユウはその覚悟が出来ずに、考えないことで避けている。
「初めから記憶をそのままにしておく気はなかったがな‥」
指で氷を回すとグラスの中で音を立てる。
この国を、世界を見張っているあの男――ヒューイ・ラフォレットがユウに目をつけないはずがない。
「ユウは俺の観察対象だ。奪われては困る」
ロニーは再びこめかみに人差し指を当てると目を閉じ、トントンと数回触れさせた。
「さて‥‥あとはゆっくり上手く情報屋に伝わる方法を考えるとするか」
クツリと部屋に笑いが響き再び静寂が訪れる。
そうして‥――
「‥‥あれ?」
「ユウ?どうしました?」
「‥新聞に大統領の事が載ってて、今何か思ったんだけど、私何を思い浮かべたのかな‥?」
膝の上に新聞を広げたまま、ユウがきょとんとラックを見る。
「‥さあ‥私に聞かれても」
「だよねぇ‥?」
新聞には“大統領選挙”の文字。1933年にはある人物が大統領となり、その名は時代と共に歴史に刻まれることとなるのだが。
上げられた候補者の名前を見てもユウは何が頭に引っ掛かったのか分からず。
二人で顔を見合せ首を傾げている様は間抜けで面白かったと、数秒後にその図を見るベルガによってからかわれることになった。
***
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