10.祝福を受ける少女は左手に誓う
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どう動いたのか、事件はみるみる間に終結し真実を覆い隠したまま警察へと引き渡された。
私たちは警察が来る前に引き上げたのだけど、今回の件でガンドールの名前が上がることはないらしい。
そうして今、私はと言えば。
「‥‥‥‥」
「今回ばかりは自業自得ですから、しっかり受け止めてください」
お兄ちゃんから二時間、ケイトさんから三十分、キースさんから無言の一時間。お説教をもらって半泣きになっていた。
死んでいたかもしれない、大怪我をしていたかもしれない。無事だったのは結果論で、私の行動は無鉄砲すぎると。
心配したと、そう言って最後に抱き締めてくれたケイトさんに胸が締め付けられる思いだった。
「‥ごめんなさい」
小さくそう呟けば、隣に腰を下ろしたラックさんの手がぽふりと頭に乗せられる。
チックさんに切り揃えてもらって短くなった髪が梳かれ、指を離れたものからぱらぱらと頬に触れた。
「その言葉はもう充分聞きましたから。反省しましたか?」
頷くとラックさんは苦笑して、私の頭を肩に寄りかからせる。
昨日はあれから、イブちゃんと話しているところにラックさんがやって来て一枚の紙を渡した。
それはお兄さんが埋まっているという場所を示したもので、ラックさんは淡々とイブちゃんに告げて背を向けてしまった。
ラックさんがどんな気持ちでそれを差し出したか‥今考えても心が痛む。
『ユウ、行きますよ』
半身をこちらに向けたラックさんに、私は頷いてからイブちゃんを抱き締めた。
ごめんねとも早く見つかるといいねとも言えなくて‥驚いているイブちゃんに曖昧に微笑むと、その心境に気付いたのか眉を下げる彼女に。
たくさん話ができて嬉しかったと、ありがとう、と。それだけを告げて、執事さんたちに頭を下げてラックさんに駆け寄ったのだった。
「ロイさん‥大丈夫かな」
ぽつりと漏らした独り言に、ラックさんがこちらを見る。
イブちゃんと別れた後、ニコラスさんたちにロイさんのことを聞いたのだけどロイさんはもういなくなった後だった。
イーディスさんからの連絡でラックさんが聞いた詳細によると、イーディスさんを盾に迫られたロイさんは、薬を入れた後腕を傷つけ大量の血と共に薬を抜いたそうだ。
馴染みの医者に連れて行って、命に別状はないからあとは薬の効果で混濁した意識が戻れば‥ということだった。
「お見舞いとか‥‥行っちゃだめ?」
ラックさんが盛大に眉を寄せる。
予想通りというか、予想以上というか‥
「ロイさんね、守ってくれようとしたよ。悪いことしたけど、でも、すごく後悔してて‥‥だから全部がいいってことには、ならないけど‥」
それは、分かってる。
恐る恐るラックさんを見れば、深いため息をついて。
「部下を同行させます。彼が運ばれたのは普通の医者ではありませんし、私が行けば‥精神状態を悪化させかねません」
「! 目が覚めたら‥行ってもいいってこと?」
頷いたラックさんに私は思わずぱあっと表情を明るくした。
「ラックさんありがとう!」
「‥‥‥」
「‥ラックさん?」
‥何でここでだんまり?
覗き込むと眉を寄せたラックさんの手が私の後頭部に添えられ、瞬きもする暇なくリップ音と共に唇が触れた。
「っ‥な、なななに‥!?」
「自分でも呆れますね、ここまで大人げないと」
未だ鼻先が触れそうな距離でラックさんの瞳が私を見つめる。
「本心を言えば‥面白くありません」
「‥‥へ?」
訳が分からずにぱちぱちと瞬きをする。
「他の男のことで一喜一憂しているユウを見るのは、面白くない」
「――それ、んっ‥!?」
言葉がキスに飲み込まれ目を見開くと、スッと細められたラックさんの瞳。
頬を染め上げ、私はキュッとラックさんのシャツを握った。
だって、それって。ヤキモチ焼いてくれたってことだよね‥?
「んっ‥はふ、ラックさん、あのっ‥」
「何です?」
「あのね、その‥私が帰って来てからもずっとバタバタ忙しそうだったでしょ?だからその‥」
そっと不思議そうな表情で待っているラックさんを見上げる。
「今日、ギューってして寝たいな‥」
「‥‥‥‥‥」
ピシリと音でも聞こえてきそうなほど、固まって動かなくなったラックさんに慌てて手を振った。
「‥‥拷問か」
「え?なに?」
ラックさんは頭を抱え再び深いため息をつく。
じっと綺麗な瞳を埋め込んだ狐目が私を見つめ、首を傾げれば。
「‥そうですね」
手が取られ、指が唇に押しあてられた。
「仰せのままに」
「‥‥‥!!」
ボンッと火を噴いたように赤くなった私にクスクスと笑うラックさんは。
コーヒーを飲みながら、ふてくされる私の口にチョコレートを押し込んだ。
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