09.少女は自ら情報屋に足を踏み入れる
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「クソが‥‥このアマぁぁッ!」
ビリビリと肌に刺さる殺気に鳥肌が立った。
無理矢理開かれた目は真っ赤に充血し瞳孔も開ききっている。
尋常じゃない、とその人を見て思った。
「貧弱組織のボスは腐りきってるらしいなァ?クズ移民を女にするなんざ」
くっと唇を噛む。
心底楽しいといったように喉を鳴らしているのに、その顔が酷く歪んでいる。
さっきから恐怖の中にふつふつと私の心を支配して、その人の言葉はその感情を増幅させていく。
「弱ぇ奴が生き残れる世界じゃねぇんだ!さっさとくたばれ!」
ああ、これは。
「てめぇもだぞ小娘ぇ。親父や兄貴と同じように、ニューアーク湾で魚の餌にしてやる」
「同じ、ように‥?」
二人は事故で亡くなったとイブちゃんが言っていた。隣を見れば大きく目を見開いている彼女に。
「知らねえなら教えてやる」
その人は、自分が殺したと、その殺し方までも嬉々として語ってみせた。
私は微かに震える彼女の目線を遮るようにして前に出る。
「‥ふざけないで」
声が震える。恐怖じゃない。これは、今までに感じたことのない‥抑えのきかない怒りだ。
「あなたには、マフィアとしての誇りはないんですか」
「あ?」
「恥ずかしいとは思わないんですか」
私たちより一回りは上に見える大人が、裏に身を置く人間が。カタギに殺しの自慢?
呼吸すら怒りに震え、無意識に握り締めた拳が痛い。
「あなたが‥あなたなんかがガンドールを蔑むことは許せない!」
身体が熱い。沸騰したように、感情が煮えたぎる。
「彼女が‥イブちゃんが、何をしたって言うんですか。あなたに、何をしたの‥っ!」
男の人の瞳に怒りが浮かんだと思うと一瞬視界がぶれ走る痛みに顔を歪めた。
「っ‥いっ‥」
髪を掴まれたまま引きずられる。頭皮に自分の体重がかかり、感じたことのないほどの痛みに涙が出た。
「死にてぇらしいな」
抑制のない声に凄まじい恐怖を覚える。それでも私の怒りは収まらず、考えるより先に睨み付けていた。
「‥簡単に死ねると思うなよ。てめぇはこのまま引きずって帰る。ガンドールの化け物共の餌として利用するんだよ。まずは指を一本一本送ってやろう」
こんな、こんなにも緊迫した場面なのにバカみたいなことを考えてしまったのは、多分、この人があまりに滑稽だったから。
「てめぇっ‥何笑ってやがる!」
髪を強く引かれ激痛に顔を歪める。
まさか一生のうちで自分がこんな状況に遇うなんて、向こうにいた頃じゃ思いもしなかったのに。
実際に体験すれば、この人があまりにも。
「ドラマの端役みたいで」
「あ゙ぁ!?」
ああいう台詞を言う人は、大抵叶えられないで終わる。
意味が分からないようで苛立ちを煽ってしまったらしく、今は私しか目に入っていない。
この人を見ていて、私の感じた印象は確信に変わる。
この人に、端役を越える程の器量があるとは思えない。
拳に力を込めたところで、私は自分が何か握りしめていたことに気付く。
よくよく見ればそれは折り畳みナイフで、さっきまでついていたラックさんの血は‥綺麗になくなっていた。
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