09.少女は自ら情報屋に足を踏み入れる
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収拾がつかないと判断したのかラックさんが懐から銃を取りだした。
ラックさんの役目は主に交渉だと前に聞いたことがある。そのラックさんが銃を出したのだから、それはよっぽどだということで。
連続して銃が鳴る。耳を塞いだのにそれを貫く程の音だった。‥それなのに。
「きかねえきかねえきかねえ!」
「えっ‥!?」
その人の身体には数ヵ所穴が開き血が出ているのに、まるで何事もなかったかのように‥動きは止まらなかった。
ラックさんの倍はあるかと思われるその体躯で、力一杯振り上げた拳をラックさんの腹部にめり込ませる。
「ゃ‥」
床に倒れかけたラックさんの顔にすかさず蹴りが入れられ、私は思わず飛び出した。
「消えろきえろきえろきえろきえろぅあああっ!」
まるで人形のように床を跳ねたラックさんの身体に何度も何度も足が踏み降ろされた。
嫌な音を立て、肉と骨が形を失い、その度に赤い血が跳ねる。
呼吸が乱れ今にも膝が折れそうになって、吐き気すら込み上げて来た。
「やめ、て」
のどが貼り付いて声が掠れ、ただ、ただ、恐怖だけが私を支配する。
人の形を失った。誰もが“死んだ”と一目で分かる。
“ラックさんが、死んだ”
「――いやああぁあぁっ!」
かくんと膝が折れた。
血が広がっていく
あれは私の知っている人の形ではない
あれは‥‥列車で見たモノと同じ――
「ラックさ‥」
嫌だ。死んじゃ嫌だ。
「んだァ?てめぇ‥まさかこいつの女か!」
胸ぐらを掴まれて、そのままその人の目線まで持ち上げられた。
「っ‥ユウちゃん‥!」
私の瞳が、反射的にイブちゃんを見る。不安そうな、心配そうな瞳。
もう一度ラックさんを見ると僅かに蠢き始めたそれに、私ははっとして少し正気を取り戻した。
そう、だ。ラックさんは不死者だった。彼が死ぬことはないのだ――と。
「あ‥」
‥そう思ったら、途端に体が熱を持ち始めた。安心、恐怖、焦燥。そして、ふつりと沸いたもう一つの感情。
右手に持ったポットをきつく握る。私は自分を持ち上げるその人を見上げて、目が合ったと同時に。
左手で自分の顔を防ぎつつその人の顔にぶちまけた。
「ぐああっ!?っ小娘ぇぇぇ!」
宙で離されたために地面に尻餅をつく。
横を通り抜けラックさんを一眼してから、イブちゃんの両肩を掴んだ。
「イブちゃん怪我はっ?ロイさんは‥」
「大丈夫です。ロイさんははぐれてしまって‥それよりユウちゃんどうして‥っどうして来たんですか!?」
「だって!だって、二人が心配で‥」
必死だった、と。呟くとイブちゃんが私の手を握ったから顔を上げれば、泣きそうに表情を歪めていた。
「イブちゃ‥」
「あ‥ユウちゃん!ラックさんが‥」
視界の端でピクリと足が動いたのが見えてラックさんの横に膝をつく。
「ラックさん‥っラックさん!」
早く、早く目を覚まして。
‥こんなに血が出ているのに、こんなにも生気を失った顔をしているのに、元に戻る。何事もなかったかのように傷ひとつなく。
分かっているのに実際“死んだ”ところを見るのは初めてで、本当に生き返るのか不安でたまらない。
彼のスーツを掴むと内ポケットから何かが滑り落た。
何だろう‥?
私がそれを手に取ったところでイブちゃんの小さな悲鳴を聞き、その視線の先‥後ろを振り返った。
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