08.少女は自分の在り方を語る
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「ロイさんっ!」
イブちゃんが駆け寄り、突然部屋に現れた男の人はロイさんを盾にイブちゃんについて来るように促した。
「ケイトさんは買い物に出掛けているようです。危害は加えていませんよ」
どうして‥家に入れたの?どうして二人を連れて行こうとするの?
じっと睨め上げると男の人が私を見て、その手を伸ばした。
「っ‥やめてください!」
それを止めたのは、恐怖に耐えるようにスカートを握っているイブちゃんで。
「私とロイさんが必要なのでしょう。彼女には手を出さないでください」
「ああ、はい。では行きましょうか。‥事務所にいた訳ではありませんしね」
そう小さく呟いてあっさり離れていく男の人。
イブちゃんは私をちらりと見て、男の人に続いた。
「運び先はDD新聞社ですか。急いだ方がよさそうですね」
二人を連れた男の人がいなくなり、部屋には私だけが残された。
体を捻ればほんの少しタオルが緩み、更に動かす。
庇ってくれた。怖いはずなのに、憎いはずなのに。
そして男の人の“事務所にいた訳ではない”という言葉。
よく分からないけれど、もしかしたら彼は私も連れて行こうとしていた‥?
“ガンドールの事務所にいた私”を?
「っ‥‥ふあ、」
十分ほど格闘して、タオルが解け口を覆っていたナプキンを外した。
「‥まず、相談!」
ラックさんに言わないと。約束だし、ラックさんは怒ると怖い。
『あれ、ユウちゃんどうしたのー?』
「ラックさんいますか?」
『ううん、三人共出かけたよー。急ぎの用事?』
「えっと‥うーん‥」
どうしよう‥でも、だけど。私を庇ってくれた二人を‥このまま放っておくの?
私には関係ないって?
「‥そんなの、無理」
『ごめん、聞こえなかったよー。なにー?』
「‥じゃあ、今からDD新聞社に向かうって伝えてもらえますか?」
はーいと返事の後、すぐに否定するような声が耳に届く。
『あー、でも今は行かない方がいいんじゃないかなー』
「へ?どうしてですか?」
『だって、ラックさんたちが出掛けたのもDD新聞社だもん』
サッと血の気が引いた。黙ってしまった私にチックさんが何度も呼びかけて来る。
「分かりました‥ありがとうございます、チックさん」
『‥無理はだめだよー?』
もう一度返事をして電話を切った。
ケイトさんはまだ帰って来ない。鍵をせずに家を空けるわけにはいかないから、メモを残して窓を開けた。
「まさかまたこんな所から出るなんて思わなかったなぁ‥」
このルートを使うのは二度目だ。
通りに出てタクシーを待ちながら、心の中で早く早くと急かす。
「ラックさん怒るかな‥怒るよね‥先に謝っておこう」
ごめんなさい。意味はないけど、気持ちの問題だ。
ふっと白い息が上がり、それを視線が追う。
「無事でいてね‥イブちゃん、ロイさん」
**
「イブ・ジェノアードとロイ・マードックです」
DD新聞社。殺し屋のことを考えながらも頭のどこかでスーツを新しく買わなければなどと思っていれば、それは姿を現した。
少女と若い男を連れて。
「助かったよ、便利屋。‥ん?ユウ・スキアートはどうした」
聞こえた名前にピクリと眉間が反応してしまった。
「彼女は事務所にはいませんでしたので」
「チッ‥まあいいだろ。苦痛に歪む顔は見たかったがな」
グスターヴォが私に視線を向けてくる。その挑発するような顔が気持ち悪い。
事務所にはいない。当然だ、ユウは今キー兄の家にいるのだから。
ユウが巻き込まれなかったことに安緒しながらも、私はつい男を凝視してしまった。
「(何してるんでしょうね‥クレアさんは)」
眼鏡に髭面、声や口調まで変えて依頼を受けていたらしい便利屋。
その正体は私たち兄弟からすれば易々と見当はつく。
兄たちに視線をやれば同じような顔に、私は肩を竦めて見せたのだった。
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