08.少女は自分の在り方を語る
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「すごい立ち位置ですよねぇ‥」
「そんなしみじみ‥ユウちゃんは怖くないのかい?」
「えっと、例えば‥一般の人からすればマフィアとかカモッラって悪い人たちの集まりだって思ってると思うんです」
実際、私もそんなイメージだったし。
みじかめ料とか、借金の取り立てとか、銃撃戦とか。それを思えば確かに怖いのかもしれないけど‥
「皆にとっての悪でも‥私にとっては優しい人たちなんです」
それは自分の視点であって、わがままな意見でしかないんだけど。私には‥彼らが全てだから。
「それは‥‥」
言葉にされることはなかったけれど、イブちゃんの沈黙は否定ではなかった。
カチャン、とカップがソーサーに戻される。俯く彼女にロイさんと顔を見合わせると、イブちゃんが絞り出すように言った。
「‥私には、兄がいました。私の、ジェノアード家に残るたった一人の」
カップを置いて静かに続きを待つ。その間がやけに長く感じた。
「兄は乱暴者で、卑怯者で、どうしようもない人でした。でも、それでも兄は、ダラス兄さんは私にだけは優しかった‥!」
私はぐっとテーブルの下で手を握り締める。
顔を上げたイブちゃんの瞳からは次々と涙が溢れている。そして、その瞳には‥強い憎しみも込められていた。
「兄は一年前から行方不明で、やっと突き止めたんです!なのに、それが、川の底なんて‥っ」
「っ‥」
川の底。彼女がその話を私にすると言うことは、それは要するに。
「私は、ガンドールさんに会って真実を確かめたいんです!もし、もしも会ってそれが真実だと確かめることができたら‥お願いします!ユウちゃんからもガンドールさんにお願いしてください!」
警察に行ってほしい、と。
涙ながらにイブちゃんはそう言った。それが無理だと自分で気付いていながら。
ロイさんは私とイブちゃんを交互に見ては口を開き、何も言わずに閉じるを繰り返している。
「もし、」
少し声が震えてしまった。私は更にきつく手を握り締め、まっすぐイブちゃんに視線を送った。
「もしも、イブちゃんが許せないって言うなら‥気が済むまで私を責めていいし、殴ってもいい」
「‥!」
「私は、彼の仕事に口を出すことは許されてないから。それは恋人として、越えちゃいけない一線だって‥私は思ってるの」
それに。例え私が涙ながらに訴えたとして、それを受け入れるような甘い人ではない。
私が彼の進む道を曲げることはできないのだ。
「私は、無力だけど‥」
それでも、彼女を見捨てたいわけではない。それはただの偽善だと、自分でも思う。
「必ず、イブちゃんをラックさんたちに会わせます。真実を聞かせてもらえるように、私もお願いします」
だから。
「だからそれまでは‥どうか私を憎んでいて」
二人が目を見開く。悲しいのは彼女で、私が今泣くことは許されない。
どこに怒りをぶつけていいのか分からないとそれだけで気持ちが暗くなる。
だからせめて、ラックさんたちに会えるまでは。
「私は、イブちゃんにそれぐらいしかしてあげられない‥」
「ユウちゃん‥」
イブちゃんが何か言おうと口を開いたと思えば、二人の瞳が驚愕に見開かれて。
「んむっ‥!?」
「えーと、イブさんにロイさんですね?」
手早く両手を後ろに纏められ口を塞がれる。振り返ろうにもすごい力で、鼻が塞がれなかったのが唯一の救いだった。
「一緒に来ていただきます」
何が起きているのか思考が追いつかない。
「お、お前誰だよ!彼女を離せ!それにケイトさんは、ケイトさんはどうしたんだ!」
そのままテーブルにあったナプキンで口を覆われ、どこから取ったのかタオルのようなもので体ごと椅子の背もたれに縛り付けられる。
「んーっ、んんー!」
「失礼、急いでおりますので」
後ろから気配が消えたと同時にロイさんの呻き声が聞こえた。
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