08.少女は自分の在り方を語る
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「昨日のケイトさんとキースさんのお話素敵だったなあ‥今度よければもっと聞かせてほしいです!」
昼食を終え食器洗いを手伝いながらケイトさんを見上げると、クスリと笑って頷いてくれる。
昨日はロイさんとイブちゃんもここに泊まったのだけど、夕飯の時には色々な話を聞いた。
私もお父さんの話は前にラックさんから聞いたことがあったけど、キースさんとケイトさんの馴れ初めはそれはそれは私をドキドキさせた。
だって、キースさんがそんなに話すことも初めて知ったし、本当にケイトさんの演奏が好きだったんだなあって。
この時代はまだ映画は白黒で、それどころか一部にしか音が付いていない。
私はケイトさんからその話を聞くまで、映画に伴奏者という仕事があったことすら知らなかった。
「私はこれから買い物に行ってくるから、二人にお茶持って行ってくれる?はい、お菓子も」
「‥はい」
「ユウさんはそのままでいればいいわ。二人は戸惑っているだけなんだから」
行ってくるわねと私の頭をひと撫でして家を出るケイトさんを見送る。
私は未だギクシャクした空気に慣れず、気合いを入れるように握り拳を作った。
両手が塞がってノックが出来ないから声をかけると、ロイさんがドアを開けてくれて。
「お茶、どうですか?」
「ああ、ありがとう」
「ごめんなさい、わざわざ‥」
ティーセットとお菓子の乗ったトレイをテーブルに置く。
その時に一つのカップがごろんと転がり、落ちそうになったのを慌てて三人で押さえた。
「危なっ‥」
「びっくりしました‥」
「わっ、二人ともありがとう‥!」
バクバクと鳴る心臓にカップを両手で持って二人を見る。
私が思わず笑うと、二人も小さく笑ってくれた。
紅茶を注ぎ二人の前に置くと、お礼と共に口を付ける。
私はミルクを入れてからこくりと一口喉に流した。
「何か、手慣れてるね」
「え?あ、はい、私喫茶店でバイトしてるんです」
お店の名前を告げてよかったら来てくださいと言ってしまってから、二人が曖昧に微笑んだのを見てしまったと思った。
でもとりあえず私も笑顔で取り繕っておく。そうだった、二人は気軽に来れないよね‥
「ユウちゃん‥あの」
顔を上げればイブちゃんがじっと私を見つめている。
「その、ユウちゃんは‥マフィア屋さんと付き合うことについて迷わなかったんですか‥?」
「イ、イヴちゃん‥!」
慌てるロイさんに苦笑して、もう一口紅茶を飲んだ。
「迷わなかった‥かな」
ぽつりと零した返事に、二人が目を見開く。
好きになってはいけないのだと、想いを告げてはいけないのだと悩みはしたけど、付き合うことに迷いはなかった。
「、私には‥捨てるものが何もなかったから」
「‥?」
首を傾げる二人にお菓子を進めながら、クッキーを一つ口に運ぶ。
「ラックさんはね、私に‥生きる意味をくれた人なの」
突然こんなことを言われても分からないだろうなと、少し考えてから続けた。
「私も、両親がいた頃だったら‥すごく迷ったと思う」
「ユウちゃんもご両親が‥?」
私は頷いて、でも今は兄がいるからと二人に笑いかける。
兄、という言葉にイブちゃんが悲しそうな顔をしたけど‥それ以上は何を考えているのか分からなかった。
「家族は兄だけだけど、他にも沢山‥家族みたいな人はいるんです。その兄も‥実は同業者だから」
「「えっ?」」
思わずといったように身を引いた二人。多分、これが普通の反応だと思う。
「マルティージョ・ファミリーって知ってますか?」
縦と横、それぞれに首を振って反応を見せる。
特にロイさんは千切れんばかりの頷きにイブちゃんが驚いている程だ。
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