08.少女は自分の在り方を語る
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車の中はエンジン音が支配し特に会話もなかった。
それが空気を圧迫して息苦しく、私はレストランから出る時につけたウィッグを外した。
「それ、どうしたの?」
運転席からケイトさんがちらりと視線を寄越す。
「私が狙われないようにって‥クレアさんが」
「‥狙われる‥?」
後ろから怖ず怖ずと声がかかる。
二人は私がお店を出る時にウィッグを被るとすごく不思議そうな顔をしていた。あの時は曖昧に誤魔化したけど。
「ユウちゃんは、ガンドールさんに関係のある人なんですか‥?」
「詳しい話は中でしたらどうかしら?ほら、もう着きますから」
促されて止まった家の前、荷物を抱えて車を降りる。
ケイトさんは何となく分かっているのか、家に入ると二人をソファーに案内して私にティーセットを渡してくれた。
二人は緊張した面持ちで、私が向かいに腰を下ろすと少し怯えたように私を見る。
「私が二人に会ったのは偶然だから‥安心してください」
しょうがない。怖がられたって、私はマフィアと関わってるんだから。
周りは皆それを知った上で私と接してくれていたから、実際こうして恐怖されるのは初めてで‥少し悲しかった。
「あ‥」
イブちゃんはそんな自分の表情に気がついたようだったけど、私は笑顔を返してティーポットに手を伸ばす。
「ごめんね‥黙ってて。まさか、イブちゃんからガンドールの名前が出てくるなんて夢にも思わなかったから‥」
「その‥ユウちゃんはガンドールの人間なのかい?」
ガンドールの人間、というわけではない。私は構成員ではないし。
「私は‥その、三男のラックさんの恋人‥なんです」
目を見開く二人に苦笑する。
「二人は何か事情があるみたいだし、言うに言えなくて‥」
「‥気持ちは、分かるよ」
簡単に言えるものでもないだろうとロイさんは納得してくれたらしい。
「でも、だからと言ってラックさんは私に仕事のことは話さないし、それに‥」
紅茶をそれぞれの前に置きながら、私は何を言い訳じみたことを言っているのだろうと口を噤んだ。
私には歳の近い友人がほとんどいないから‥イブちゃんと出会えたのが純粋に嬉しかった。
私には、普通の友人を望む権利なんてないのに。
「‥私は、ただ、恋人というだけなの。私は何も知らないし、何もできないから‥それだけ分かってほしいです」
「‥そう、か‥」
「分かりました‥」
分かったと言いながらイブちゃんはどこか複雑そうだった。
彼女は一体なぜラックさんたちに会いたいのだろう?一件何の関係もなさそうな彼女が‥
「、狙われているというのは‥?」
紅茶に手を伸ばしながら思い出したようにイブちゃんが怖ず怖ずと視線を寄越す。
「私は見ての通り東洋人だから‥すぐに見つかっちゃうの。今組織が色々とごたごたしてるから、狙われないようにってこれを」
ウィッグを鞄から出して見せる。
「ラックはあまりいい顔をしなかったんじゃない?」
後ろからケイトさんの声がかかって、私は思わずソファーの背もたれから身を乗り出す。
「えっ、どうして分かったんですか?」
「だって、ラックはいつも愛おしそうにユウさんの黒髪撫でてるじゃない」
「うっ‥」
かっと顔が熱くなる。‥確かにラックさんは、髪を撫でては綺麗だと言ってくれる。
「ふふ、さあ、こちらへどうぞ。ユウさんも少し手伝って?」
先程からしていたいい匂いに実はお腹がぺこぺこだ。
私は頬の赤みを誤魔化すようにぱんっと軽く叩いてから、困惑した様子の二人の手を取ってテーブルに促した。
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