08.少女は自分の在り方を語る
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そう貼り紙のなされたドアの前、私にとっては見覚えのありすぎる建物を見上げながら自己嫌悪に陥っていた。
「‥ユウちゃん?」
「気分でも‥?やはりユウちゃんはお帰りになられた方が‥」
「ち、違うの!大丈夫!」
心配そうに覗き込んで来る二人を何とか納得させて、小さく息をつく。
普通に考えて、これはガンドール・ファミリーと彼女たちの問題で、私とは無関係なのだから同行する必要はない。
そもそも二人からすれば私はただの通りすがりで、私も行くと言った時にはそれはそれは驚かれた。
ユウちゃんまで危険に足を踏み入れる必要はない、正気なのかと、イブちゃんとロイさんに問われたのだけど。
私の帰る場所はここで、行き着く先は同じなのだ。
訳ありの二人と出会ってしまって、私はそれを放っておけるほど物分かりのいい大人ではない。
きっと気になって気になって、最後にはラックさんを問い詰めてしまうに違いない。
「俺は顔を合わせるわけにはいかないから‥」
「あのっ!」
二人が目を丸くして振り返る。
私は意を決して、事実を口にしようとした。服を握り口を開いたところで、それを遮るように金属の軋む音と共に扉が開く。
「あら、ここに何かご用ですか?」
中から出て来たケイトさんは私に気付いていないようで、二人の問いかけに答えている。
「あの、貴女は?」
「私はケイトと申します。三兄弟の長男‥キース・ガンドールの家内です。あら‥ユウさん?」
ぱちりと合った目が微かに見開かれる。
二人の視線が驚いたように私に向いて、私はくっと服を握った。
「‥‥よろしければ、食事でもどうかしら?こんなところで立ち話も‥寒いでしょう?」
二人は戸惑ったような表情をしていたけど、そのうちケイトさんの言葉に頷く。
車に二人を乗せたあとケイトさんは私の前まで来て、ゆるりと頭を撫でてくれた。
「ラックから事前に話は聞いているわ。今日は用事があって来たのだけど‥ちょうどよかった」
私の手から荷物を取って、チックさんに一言残してらっしゃいと背中を押してくれた。
鞄から本を取り出して、車内から視線を受けながら建物に入った。
「チックさん、ただいま帰りました」
「おかえりー。たった今ねー、ケイトさんが‥」
「はい、上で会いました。それで、このまま連れて行ってもらうのでラックさんに言っておいてもらえますか?あと、これ」
クレアさんにと本を渡すと、チックさんが了解と返事を返しながら鋏を鳴らす。
「じゃあ、お願いします」
「うん。あ、ユウちゃんユウちゃん。僕ユウちゃんは黒髪の方が好きだなー。綺麗だし、ユウちゃんは黒髪がよく似合うと思うんだー」
ドアの前、金の髪に触れながら私はふっと笑みを零して振り返った。
「ありがとう、チックさん」
パタパタと鋏を持った手を振るチックさんに振り返して、私は事務所を出た。
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