07.少女はまた渦中へと引き寄せられる
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「嘘です!そんな、祖父や父がそんな事をしていただなんて!そんな‥‥ッ!」
「頼むから、頼むから落ち着いてくれ」
「い、イヴちゃん、お水飲んで落ち着こう?ね?」
入ったレストランで話を聞いたイヴちゃんは、内容に酷く興奮し取り乱した。
何故私までこんなところにいるのかと言えば、イヴちゃんが混乱していたせいかレストランまで私の手を離さなかったからで。
レストランに着いて初めて気がついたらしいイヴちゃんに何度も謝られたけど、ここまで来れば仕方がない。
途中から見ていたロイさんは私をイヴちゃんの使用人だと思い、家の人間で私程度ならば同じく脅せば黙らせることができると考えたらしい。
話を聞かれて警察に行かれても困るからここに残ってほしいとロイさんにも懇願されて、留まる他なかった。
あれから分かったのは、ロイさんは真に悪い人なのではなく、第一印象と変わらず気弱な人だということ。そしてイヴちゃんは本物のお嬢様らしい、ということ。
ロイさんは薬に手を出し、取り返しのつかない行動を取ってしまったことでルノラータに命を狙われている。
そこでルノラータの弱みを盾に交渉を試みようと手にした情報というのが、イヴちゃんのお祖父さんとお父さんが薬を作って家を大きくした‥という事実だった。
‥やっぱり、私が聞いていいような話じゃなかった気がする。
でもルノラータと言えば、たった今ラックさんたちが対立している組織だ。
「‥ロイさんは、イヴちゃんがそれを知っていると思って盾にしようとしたんですか?」
じっと見つめれば、ロイさんは気まずそうに視線を泳がせ小さく頷く。
‥なんて言うか、これほど裏の世界に似合わない人はいないんじゃないだろうか。
「私が言うのは違うかもしれないけど、でも、それは‥勝手すぎます‥」
イヴちゃんのことなんて何も考えてない。客観的に見れば、誰だってそう思うに決まってる。
「ご、ごめん‥」
だけど、こうして本当のことを告げて自分よりも何歳も年下の私に謝ってしまう辺り、彼の人柄を感じる。
普通悪い人は、本当のことなんて話さないで強引にでも連れて行ってしまうものだと思う。
「ユウちゃん、ありがとうございます」
イヴちゃんを見ると、不安そうではありながらも大分落ち着きを取り戻していた。
取り乱して申し訳ないと謝るイヴちゃんに、私とロイさんは慌てて首を振る。
「ごめん。出来れば、さっきの話は忘れてくれ。あ、でも、いや、それだと俺が死ぬんだ。どうしよう」
どうしようってロイさん‥
「‥ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「‥?」
こくりと水を飲み喉を潤す。
イヴちゃんは握りしめた手を見つめながら、意を決したように顔を上げた。
「私の父と兄は、先日事故で他界致しました。でも、それは、もしかして――」
「それはない!ない、と思う。情報屋の奴は、『事故で死んだのをいい事に』乗っ取ったって言ってたから!」
「そうですか‥」
‥それにしても、その情報屋の人はひどい。
だって、イヴちゃんを利用することを前提で情報を与えて、ロイさんが例えその通りに行動したところで二人とも救われない。
じわりと浮かんだ腹立たしさを押し込めていれば、不意にイヴちゃんが言った。
「その話、お受けします」
「え?」
「イヴちゃんっ、それって‥」
自分を盾にルノラータとの交渉に応じる、っていう事‥?
イヴちゃんは頷いて、ただし条件があります、と彼の瞳をまっすぐ見つめた。
「私を今すぐ、ガンドールさんの居る所へ連れて行って下さい」
一歩、また一歩と中心へと近づく。
彼女がそこまでしてラックさんたちに会いたがる理由は何なのだろう?
彼女がそこまでして向かう先は何があるのだろう?
そして私は‥自分の境遇を未だ言いあぐねていた。
***
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