07.少女はまた渦中へと引き寄せられる
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「‥これ君が読むの?」
本屋のおじさんに訝しげな顔でそう聞かれて、私は首を傾げることになった。
「、クレアさんどんな本買って‥」
“殺したいほど愛を ~女性の心理と‥”半分袋から出した所で元入っていたように戻す。
「‥‥うん、何も見なかった」
早く帰ろう、そう思いながら鞄に本をしまっていると、突然強い衝撃を受けて転んだ。
「邪魔だ、移民」
‥完全に油断していた。アルヴェアーレからウィッグは外していたから、あり得ることだったのに。
転んだ拍子に落としてしまった本は袋に入ったまま無事らしい。
無事だったことへの安緒とぶつかられた時に手首当たった痛みに深く息をついた。
「大丈夫ですか‥?」
本を拾って手を差し出してくれたのは、この辺りではあまり見かけないような上品な服を着た女の子。
「ありがとう‥」
手を取って立ち上がると、袋についた砂を払って渡してくれる。
「あの、今の方は‥」
突き飛ばされたところを見られていたらしい。私は本を鞄にしまってからぱたぱたと服の汚れを落とした。
「嫌なところ見せちゃいましたね‥ごめんなさい」
心配するような瞳に優しい子だなと思った。彼女には人種なんて本当に関係ないみたいだ。
「本当にありがとう」
頭を下げて笑顔を向ければ、彼女もふわりと笑い返してくれる。
そのまま別れてタクシー乗り場に向かおうとすれば、彼女はきょろきょろと辺りを見回して路地に入ろうとした。
私が慌てて駆け寄って腕を取ると驚いたように振り返った彼女に、私は少し移動してから謝った。
「その‥そっちに用事があるんですか?」
彼女のような人には縁がないように見えたから止めたんだけど、お節介だったかな‥
「いいえ、タクシー乗り場を探していて‥」
「それなら向こうです。私も今から向かうから‥一緒にどうですか?」
「そ、そうだったんですか?それではぜひ」
服装のせいか少し浮いてしまっている彼女は、誰が見てもお嬢様という言葉が浮かんでくるような雰囲気を持っている。
何だかこのまま放っておくのは心配でつい声をかけてしまった。
「私はイヴ・ジェノアードと申します」
「ユウ・スキアートです」
それでも歳の近い子とこうして話せるのは嬉しい。
「あの、あちらに行ってはいけない理由があるんですか?」
「うん‥あそこの路地はあんまり安全じゃないんだって」
知っている一般人はまず近付かないとラックさんに聞いた。
イヴちゃんはちらりと私を見てから考えるように視線を落とす。
「ユウちゃんは‥この辺りにはお詳しいのでしょうか?」
「えと、私も来てそんなに経ってないからあんまり‥ごめんね」
「そうですか‥」
しゅんと俯いてしまったイヴちゃん。どうしようかと悩んだけれど、いい案は浮かんで来ない。
「あ‥でも、同じ方向なら分かるかも」
「本当ですか?なら‥‥」
言いかけて黙ってしまったイヴちゃんに首を傾げる。
呼びかけるとはっとしたように首を振って、きゅっと手を握りしめた。
「ユウちゃんを巻き込む訳には‥」
それは独り言だったのか、小さく自分に言い聞かせているようで。
「イヴちゃ‥」
「あの、イヴ・ジェノアードさんですか?」
ぴたりと足を止める。
後ろからした声に振り向けば、気の弱そうな男の人が立っていた。
顔を見合わせてからイヴちゃんが小さく頷く。反応から見て知り合いではないらしい。
彼はロイ・マードックと名乗り、イヴちゃんに聞きたいことがあると言った。
「あのさ、君の家族の事についてなんだけど」
途端に顔色の変わったイヴちゃんの背中にそっと手を添える。
イヴちゃんの様子に困惑しながらも、私はロイさんに警戒を強めた。
「実は俺さぁ、あんたの家族の秘密を知ってるんだ」
今更だけど、私は聞かない方が良かったかもしれない。
こんな状態のイヴちゃんを放ってはおけないけど、だからと言って首を突っ込んでいい話かどうか‥
私が口を開こうとすると、イヴちゃんはロイさんを見上げ。
「もしかして、ガンドールの人ですか!」
「「へ?」」
思わず出てしまった声がロイさんと重なる。イヴちゃんはずいっとロイさんに歩み寄り、強い調子で叫んだ。
「お願いです!私を、私をあなた達のリーダーに会わせてください!」
‥‥どうしよう。
何かまた足突っ込んじゃったちゃった‥かも。
ラックさん、怒らないで話聞いてくれるかな‥?
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