07.少女はまた渦中へと引き寄せられる
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『あまり‥クレアさんに触れさせないように』
私が事務所出る時、ラックさんはそう囁いて私を見送った。
道を歩きながらも私の頬はだらしなく弛んでしまう。
だって、そう言った時のラックさんは少し拗ねたような感じがして可愛かったから。
心配かけないためにも早く帰ろうと、久しぶりにアパートを見上げた。
「ただいま」
ソファーに座るクマさんに抱きついてから、出掛ける前とほとんど変わらない部屋の様子にラックさんはあまり家に戻ってないのだと分かる。
‥ラックさんは不死者だから過労で死んでしまうことはないけれど、疲れを感じないわけではない。
体を酷使していると感じることも度々あって、それでも私にそれを止める権利はなくて。
お願いはできるけどどうするか決めるのはもちろんラックさんだから。
「‥休んでほしいなぁ」
でもこの抗争が終わるまでは休めないんだろうな‥
フルフルと首を振って思考を端に追いやってから、私は一回り小さい鞄に荷物を入れ替えた。
家を出た際に隣のフィーロさんちのベルを鳴らしてみたけど留守だった。エニスさんも一緒にアルヴェアーレにいるといいけど‥
「‥変な感じ」
街を歩いていると違和感に気付く。
‥疎外感を感じない。この時代の人種の壁というのは予想以上に高いらしい。
ラックさんが私をあんなに心配するのはやっぱり、私が悪目立ちしすぎるからだよね‥
その辺の人を数人捕まえて聞けば、すぐに私の素性なんて分かる。
“ボスの女”はこの辺りで見かける東洋人だ――なんて。
「‥私も、こっちに生まれればよかったのかなぁ」
ラックさんに聞かせたら怒られてしまいそうな独り言だ。
少し沈んだ気持ちでアルヴェアーレのドアを開けながら帽子と一緒にウィッグを取る。
セーナさんに声をかけて中に入ると、いつもとは違う賑やかさに首を傾げた。
テーブルや椅子が脇に寄せられ、真ん中に並べられた沢山のドミノ。
「わあ‥!ドミノ!」
「お?ユウ帰ってきたのか!」
「うん、ただいまです!本物のドミノ初めて見たー‥すごいいっぱいあるね」
ドミノ倒しと言えばテレビの企画なんかでやっているのを見たことがある。
私は実際、お父さんの使っていた将棋でしかやったことはなかったけれど。
「「ユウッ!!!!」」
呼ばれてフィーロさんの後ろを覗けば、あの列車で出会った明るいカップルが涙を浮かべながら抱きついてくる。
「突然いなくなったから心配したんだぞ!」
「お別れも言えなかったねっ!」
「まさかフィーロたちと友達だったとはなぁ!世の中狭いぜ!」
「人類みな友、だね!」
「アイザックさんにミリアさん!会いに行くお友達ってフィーロさんたちのことだったんですか?」
二人に手を取られてくるくると回る。
もう会えないのかと思っていたからすごく嬉しい。
「あっ、エニスさん!」
「ユウさんおかえりなさい。旅行はどうでした?」
「すごく楽しかったです!」
「ユウが帰って来たって?」
「ロニー、ユウが来たぞ!」
エニスさんに抱きついていると、あちこちから皆が集まってきてあっという間に大きな輪ができた。
「ユウ」
ただいま、とお兄ちゃんを見上げれば、じっと視線が降ってそのままぐしゃぐしゃと髪を撫でられる。
突然のその行動にぽかんとしていれば、お兄ちゃんがぽつりと呟いた。
「‥思ったより落ち込んでないな」
思わず目を見張る。お兄ちゃんには列車であったことも全部分かってるんだろう。
「‥私、頑張った?」
「そうだな。お前にしては」
「私だってやるときはやるんだよ?」
「‥‥まあいい。そういうことにしておいてやる」
相変わらずお兄ちゃんは意地悪だ。
だけどそれ以上に、褒めてもらえたことが嬉しかった。
.