07.少女はまた渦中へと引き寄せられる
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目が覚めて時計を見ると、いつもより少し早いくらいだった。
昨日のうちに届いた荷物から服を取り出して着替えていると、鎖骨の下辺りに何か紅い跡が目について。
「‥‥?」
こんなの、あったっけ?列車で着替えた時は何も‥
「あっ‥!」
指で触れて思い出した。一気に熱くなった頬を両手で覆いしゃがみ込む。
「うぅ‥」
恥ずかしい。だって、あの時は自分が自分じゃないみたいで。
ラックさんも、なんて言うか‥いつものラックさんじゃなかった。
触れた場所からチリチリと焼けるような甘い感覚。
熱を持った瞳は、あれは‥‥強い欲を持ったようなそんな瞳をしていて‥
コンコン
びくっと思い切り肩を上げてしまってから、私は慌ててきちんと服を着た。
「ユウ、起きてますか?」
「は、はいっ」
パタパタと駆け寄って扉を開けると、ラックさんは私を見て首を捻る。
「‥顔が赤いですが、熱でもあるんですか?」
身を屈めて額をくっつけるラックさんの顔が視界いっぱいに広がり、私はブンブンと首を振った。
「熱は‥ありませんね。具合は?」
「元気ですっ」
「? ならいいのですが‥‥では、」
頭をひと撫でして、ちゅっと唇が触れる。
「おはよう」
完全に油断していた。再び頬を染めながらもごもごと返事を返せば、ラックさんはクスリと笑った。
「ところで朝食ですが‥ジャズホールのシェフが作って行ってくれた簡易食が底を尽きてしまって、何か買いに行こうと思うのですが希望があれば」
「、材料何も残ってないの?」
「いえ、そういうわけでは‥」
「お店も閉めてるんだよね。使わないと食べれなくなっちゃうよ?」
「まあ、そうですが」
“面倒”言葉の節々からそれがありありと伝わってくる。
‥‥こういう時、男所帯で育っただけあるなぁ‥としみじみ思ってしまう。
きっとキースさんとベルガさんは料理はしないだろうし、ラックさんも人数分作るのは面倒なのだろう。
「‥私作るよ?」
「、ですが手首は‥」
「これくらいなら大丈夫!人数分材料あるかな?」
「あったと思います」
残っていた材料は、簡単な朝食を作るには十分な量だった。
焼いたパンにレタスとベーコン、スクランブルエッグを挟んで食べやすいように半分にカットしたものを4人分。
ポテトサラダに余ったレタス、薄くスライスしたトマトと玉ねぎを添えて、最後にコーヒーを入れてテーブルに置きながら私も席についた。
「わー、いい匂いだねー」
「お口に合うといいんですけど‥」
ケイトさんやカリアさんには到底及ばないとは思うけれど、出来るなら簡易食ばかりでなくしっかり食べてほしい。
フライパンを持った時や油断して手をついてしまった時は痛みに跳ね上がったけど、生活に支障はない。
バイトが始まるまでには良くなるといいんだけど‥
「お、ウマいな」
「‥‥‥」
「‥キー兄、そんなに見ても僕の分はあげないよ?」
「僕このドレッシング好きだなー。後でレシピ教えてくれる?」
繰り広げられる会話に小さく笑みが漏れた。
こんな風に事務所で食事をするのは初めてだし、本人には言ってないけど私は三兄弟でいるときのラックさんを見るのが好きだ。
はむっと自分用に用意したパンにかじりつけば、じっとこっちを見ているベルガさんに気がついて。
「お前、まさかそれだけか?」
「ほえ?」
もぐもぐと口に入っていたものを飲み込んでから、自分のお皿を見る。
皆の半分と同じ大きさのパンにレタスと玉ねぎを敷き、マヨネーズで和えたポテトサラダを乗せてある。
「材料足りなかったのか?」
「ユウは朝食はいつもこれくらいしか食べないよ」
「‥だから小せぇんだな」
「ベルガさんが大きすぎるんです!」
頬を膨らませるとベルガさんに笑われて、私はもう一口パンにかじりつく。
‥そういえば、昨日の夜からクレアさんを見ていない。
「クレアさんは?」
「ああ、彼ならどこかへ行きましたよ」
「どうせ昨日言ってた女でも探しに行ったんだろ」
「どんな人でしょうねー。僕楽しみだなぁ」
うーん‥でも好きなのか殺したいのか分からないって言ってたけど‥
恋愛って難しいんだなぁ‥なんてしみじみ考えている間に皆食べ終えてしまって、私は慌てて残りを口に放り込んだ。
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