06.少女は彼の微笑みに身を強ばらせる
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目を開けると映ったのは見覚えのある天井だった。
「事務所‥?」
ガンドールの事務所。ベッドを占拠していただろう本が床にいくつも山積みになっている。
じわりと涙が浮かんで、飛び起きて部屋を出るといつもいるはずの構成員の皆がいなくて。
部屋を抜けて勢い良くドアを開ければ、全員の視線がこっちに向いた。
「っ‥」
全力でラックさんの胸に飛び込む。
「ふぇ‥っ‥‥ひっ‥ラックさ‥!」
「ユウ、」
困惑したような声色に私はぎゅっと背中に回した腕を強めた。
優しく撫でられる感覚が懐かしくて、やっと帰って来れたのだと実感する。
「ユウ、おかえり」
ぐすぐすと鼻をならしながら見上げれば、ふっと微笑むラックさんは。
「ただいま‥っ」
泣きながら言う私に苦笑して、親指で涙を拭ってくれた。
「何だ、そんなに怖かったのか?」
聞こえた声にびくりと肩を上げる。
ゆっくりと振り返ればよっと手を上げたクレアさんに、私は声にならない声を上げてラックさんとキースさんの背に隠れた。
「ユウ?」
「ん?どうした?」
‥あの後、再び担がれて元々の部屋に戻されたんだけど‥
クレアさんは列車が取り換えられるまであの姿で部屋に留まり、結婚してくれるかもしれない女の人の話をし続けた。
あの時は感覚がおかしくなっていたと自分でも思うけれど、ただ血を見ただけでは恐怖は抱かなくなっていた。
他に怖いものがたくさんありすぎて。
だけど当然、少し冷静になれば血だって怖いし、全身にそれを浴びているクレアさんはすごく恐ろしかった。
それが1時間以上、あの狭い部屋に共にいたのだから怖くないわけがない。
「血、いっぱい‥」
私の呟きに目を見開いてラックさんがクレアさんを見る。
「でもあれは俺だけのせいじゃないだろ。お前は守ったし」
「‥屋根の上に放置した」
「それまだ恨んでたのか。でもま、俺が白服落としたこととか殺しどうこう言わないだけ、お前は十分いい女だよ」
大きく肩を竦めたクレアさんに、私は視線を落とした。
だって、クレアさんが殺して回ったのは白服と黒服で、乗客に被害を及ぼさないためだったし‥
‥私にとってラッドさんは絶対悪ではなかったけど、周りから見れば危険因子であることは確かだったから。
それを私が攻めるのは、間違ってると思う。
「でもお前、そうやって溜め込むとどこかで爆発するぞ?ラックも見ておけよ」
「‥はぁ、」
困惑したようにラックさんが私を見る。
私が逃げるようにキースさんの方に身を寄せると、ラックさんがぴくりと眉を寄せた。
「お前は‥ラックといると弱くなるな」
「え‥?」
「‥どういう意味ですか?」
「いや、まあ別にいいけどな。ラックとユウがそれでいいなら」
意味が理解出来ずにラックさんと顔を見合わせる。
「ユウは分かってるんじゃないか?」
クレアさんにまっすぐ瞳を向けられて思わず息をのんだ。
私が‥分かってる?何を?
「ま、とにかく待機だな?了解」
「どこ行くんだ?」
「散歩」
ヒラヒラと手を振って出て行ったクレアさんの姿を見送っていると、力強く腕を掴まれて。
「キー兄、ベル兄、しばらく奥の部屋にいるから」
「お、おう」
「‥‥‥」
見上げたラックさんの笑顔は、何だか冷気を放っているような気がした。
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