06.少女は彼の微笑みに身を強ばらせる
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「‥ユウ寝てんじゃねぇか?」
12月31日、ニューヨーク・ペンシルヴェニア駅。
クレアとユウ、そしてフィーロとマイザーさんの知人を乗せたフライングプッシーフットは、約二時間遅れて駅に到着した。
様子のおかしい乗客たちや変わった集団に首を傾げながらも待つこと数分。
騒がしいカップルとマイザーさんの昔の仲間だという少年は合流したものの、一向にユウとクレアは現れない。
ベル兄の言葉に苦笑していると、クレアからの伝言が入った封筒を駅員に渡された。
フィーロたちに一言告げてから指定された路地裏へ向かえば、そこにクレアはいた。
伝言に書かれたように、ユウを連れて。
「‥クレアさん、何故ユウはそんな状態に?」
「第一お前、車掌なのになんでこんなとこに」
「俺はもうクレアじゃない」
また変な事を‥
クレアはその背に眠るユウを私の腕に落とし、飄々と続ける。
「ユウは眠ってたから拾った」
「はあ‥荷物は?」
「事務所に宅配で送った」
何故‥?
服には何も付いていないが髪から微かに血の臭いがする。
キー兄が袖を捲れば手首には包帯が巻かれ、私たちは再び顔を見合わせた。
「さて、行くか。まずは誰を殺せばいい?こっちは夕べ軽い運動しか出来なくて体が鈍ってるんだ。久々に本気を出せる仕事がしたい」
その軽い運動の流れにユウが関わっていないことを願いたい。
死んだように眠る、とは今のユウの様子にぴったりだと思う。
少なくとも、寝台車とは言え列車で落ちる睡眠の深さではない。
クレアは相変わらず意味不明だ。
結婚してくれるかもしれない女、クレアは死んだ、世界は俺にとって都合がいいように出来ている。
彼に付き合っていると自分の周りは変な人間ばかりだとつくづく思い知らされる。
一番はダントツでクレアなのだが。
「戸籍上死んでたら、その人と結婚できないじゃないですか」
言えば、彼は勢い良く振り向き。
「しまった、どうしよう。戸籍っていくらぐらいで買えるんだ?」
「わけがわかりませんよクレアさん。それじゃあ、これから何て呼べばいいんですか」
「ま、『ヴィーノ』か『線路の影をなぞる者』とでも呼んでくれ」
「だっせぇ」
大喧嘩を始めたクレアとベル兄に深いため息をつきながらユウに視線を落とす。
抱く腕に力を込めれば、ユウは鼻を私の胸に押し付けるように微かに身じろいだ。
目は覚まさないものの、その仕草に張り詰めていた気が僅かに緩む。
バキッという嫌な音と共に飛んできた歯が戻っていくのを横目で見ながら、私は再び深いため息をついた。
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