05.少女は自分の生き方について決意する
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目を開けたら、私を覗き込む複数の瞳と後ろに見える黒服が映った。
「え‥と、あの‥‥?」
‥‥な、何で!?
確かさっきまでネックレスを探していて、そしたら目の前に『線路の影をなぞる者』が現れて‥
「ユウさんよかった‥!」
「傷は大丈夫なのか?」
「ニースにニックさん‥に、レイチェルさん!?」
「あー‥久しぶり」
ぱたぱちと瞬く。まったく状況が掴めないけれど、後ろの黒服を見る限り良くないのは確かだと思う。
「ユウさんこの方とお知り合いだったんですか?」
ニースの驚いた表情にこくりと頷く。
赤黒く染まったレイチェルさんの足を見て慌てて大丈夫かと尋ねれば、なぜか逆に聞き返されてしまった。
「、何でですか?」
「何でって‥それ」
「え‥‥血!?」
何、何で、気持ち悪い。
腹部を一周するようにべったりと血が付着している。
ぞっとして無意識に胸元へ手をやるとネックレスに触れて、私は目を見張った。
ネックレスがある。あの時は赤い影が持っていたのに。
もしかして‥付けてくれたの‥?一体何のために‥?
「感動の再会は済んだかな?」
目の前に黒服が屈む。その人はグースと名乗り、まだ縛られていない私の腕を取った。
「は、離して」
「我々の質問に答えたら離してやる」
「‥っ‥痛っ‥」
腫れた手首を握られて痛みに息を詰まらせる。
「お前は何者だ?何を企んでいる」
「企んでなんて‥っ、私は一般客です!」
「一般客があんな所で昼寝か?フンッ、笑わせるな」
ギリッと力を強められて思わず悲鳴を上げる。
彼の言う“あんな所”が一体どこを指しているのか私には分からない。
「おい!やめろよ!」
「彼女は嘘をついてない!」
「黙れ屑ども。お前たちには聞いていない」
あまりの痛みに汗が浮かんで来た。
この人は、何かに焦ってる。だからこんな私みたいなイレギュラーな存在にイライラしてる。
「まあいい、知り合いと言っていたな。先に貴様に聞こう」
私の腕は掴んだまま、標的がレイチェルさんに移る。
グースの話を聞くに、彼はレイチェルさんを『線路の影をなぞる者』だと勘違いしているらしい。
私は反応を示さないレイチェルさんに困惑しながらグースを見た。
だってレイチェルさんは『線路の影をなぞる者』じゃない。
なぜなら私はさっきまで、あれを見ていたから。
「くく‥アハハハッ!」
突然笑い始めたレイチェルさんに一瞬力が強まり眉を寄せる。
「あんた、凄い勘違いをしてるよ!致命的な勘違いだ!」
「勘違い、だと?」
「あんたさ、私とあいつを間違えてるんだろ?あの赤い化け物と!残念だったね!私はあいつじゃない!」
グースが何か口を開こうとした時、荒々しく扉が開かれ黒服が飛び込んできた。
問題が起こったと聞いたグースは近くにあったロープで手早く私の腕を縛り、全員で部屋を出て行く。
今ので悪化してしまったのかズキズキと主張してくる痛みに体を丸めふっと息を吐く。
「ユウちゃん、大丈夫か?」
「その腕どうしたの?それに食堂車にいたんじゃ‥」
「食堂車にいた時は怪我してませんでしたよね?」
‥何だか、言わないと納得してもらえない空気だ。
「んと‥お客さんの一人に追い出されたんです‥私が移民だから。そこに黒服が来て、捕まってあそこに」
三人が表情を固くする。
ニックさんは私があの時言った“日本人だから”という意味が分かったらしい。
「怪我はその時に?」
「はい」
「でも‥どうして屋根の上なんかに倒れてたの?」
「、屋根の上‥?」
首を傾げる。そんな覚えはない。だって私がいたのは車掌室の廊下だったはず。
「‥私車掌室の廊下で『線路の影をなぞる者』に会ったんです。それで、気を失ってしまって‥‥気が付いたらここに」
「車掌室、って一番後ろの車輛だろ?ここは一等車輛だから‥」
「その血は怪物のが移ったんですね‥‥でも何故わざわざユウさんを連れてきたんでしょうか」
部屋を沈黙が支配する。
視界の端でパラリとレイチェルさんのロープが解け、順に私たちのロープも解いてくれた。
「とにかく逃げるよ。私はこんなだし、ユウさんもその手じゃ私に付いてくるのは無理だと思うから彼らと行って」
「はい、気を付けてください‥レイチェルさん」
「ありがとう。貴方たちも」
三人で頷くと窓から姿を消したレイチェルさんを目で追い、私たちは顔を見合わせる。
「姐さん、行きやしょう」
「ええ、」
ニースが腰に手を当てたままクスリと笑う。
「反撃開始、と行きましょうか」
「姐さん‥‥」
「反撃‥?」
私が首を傾げるとニックさんが深いため息をつく。
それが何を指すのか、嫌でも理解するのはこのすぐ後のことだった。
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