05.少女は自分の生き方について決意する
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その頃、ひとつ前の車輛ではレイチェルがベリアム親子を救出したところだった。
「気を付けて。下手に歩くより、思いっきり走った方がいい」
「はい!」
車輛の最後尾から飛び、今よりも安全な場所へと走る。
そしてメリーがそれを見つけるのと、銃声が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
親子が振り返る。レイチェルは撃たれた足を止め親子を促し、メリーはそんな彼女と足元のそれを交互に見た。
「ママ!ユウお姉ちゃんが!」
メリーの言葉に二人は目を見張る。
確かにそこに体を横たえていたのは、食堂車から連れて行かれた、レイチェルにしてみれば食堂車にいるはずのユウだった。
「っ‥とにかく行って!早く!」
ユウは気を失っている。親子が彼女を運べるはずもなく、留まっていてもいい方向には行かない。
レイチェルは唇を噛み締め、ユウを“見捨てさせる選択”をした。
闇夜と煤煙で視界は悪く、屋根に横たわっているユウは黒髪が同化し目を凝らさなければはっきり見えない。
見付からないことを願いながら親子の盾となるように立ちふさがったレイチェルは、自分たちの飛び越えた車輛の間で狙撃銃を構えた男を睨み付けた。
「あのさぁ、そこどいてくんない?子供の足狙えな‥‥ん?そこに何か‥女?」
「誰か屋根に行ってその女を引きずりおろして来い。その後ろの女もだ」
レイチェルの願いは脆くも崩れ去る。スコープで覗かれては誤魔化しようがない。
銃を突き付けられたまま連結部に下ろされレイチェルが部屋に連れて行かれると、そこには既に先客がいた。
「ユウさん!?」
「なっ‥テメェら何しやがった!」
その二人がユウと知り合いだったことには驚いたが、すぐに食堂車でのことを思い出し納得する。
金髪の少女の方は確かカウンターで仲良さ気に話していた。
それよりも電気のある部屋に来て初めて。レイチェルは彼女の服が血にまみれていることに気付かされぎょっとした。
「さぁ?屋根の上に倒れてたからな。お前らの言う赤い怪物にでもやられたんじゃねぇか?」
ちらりと狙撃銃を持った男がレイチェルを見て笑う。
しかし三人はそれどころではなく、後ろ手に縛られた腕を動かしながら必死にユウに呼びかけていた。
「っ‥‥ぅ‥」
「! ユウちゃん!」
「大丈夫ですか!?」
「しっかりして!」
目蓋が震え、腕をつきながらゆっくりと体を起こした少女の黒い瞳がぱちりと瞬きをする。
「‥‥‥え‥?」
全く事を理解していない少女が、ここに一人。
「ったく‥随分寄り道しちまった。ユウは無事か?そろそろ機関車輛への合図しないといけないんだよな‥まあ、合図してからでも大丈夫だろ」
そしてここに原因を作った男が一人。
クレアの唯一のミスは、“寄り道”をしたことだ。
黒服を外に投げ捨てた際に白服を見つけ、白服を退治していれば近くの部屋で乗客を殺そうとしている他の白服を見つけ、そして合図のため車掌室へ戻った。
そして彼はこの後ラッドとシャーネに出会い、更に寄り道をすることになるのだが‥
彼にとってはただの寄り道なのだ。
少女にとっては不運としか言いようがないが、彼の世界でユウは“死ぬ予定はない”。
彼がユウは死なないと信じているからこそ、彼は寄り道をした。
ただそれだけのこと。
だが少女にしてみれば‥最悪の展開としか言いようがないだろう。
***
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