05.少女は自分の生き方について決意する
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私にとって、いつからかネックレスに触れることが精神を安定させるお守りになっていた。
不安な時、勇気づける時、安心した時。
それに触れれば、離れていてもラックさんの声が聞こえる気がして。
「うそ‥!」
無意識に胸元へ手をやって初めて、そのネックレスがなくなっていることに気が付いた。
確かにさっきまではあったはずなのに。
「ユウ?」
私の様子に気づいたのか首を傾げたジャグジーとドニーさんに説明しながら辺りを見回す。
ミリアさんたちも一緒になって探してくれたけど、結局この部屋では見つからなかった。
「私‥車掌室の近くまで探しに行ってみる!」
「でも危ないんじゃ‥僕たちも行くよ」
「おう、俺たちも探すぜ!」
「宝探しだねっ!」
「うあ、それ少し違う」
立ち上がろうとする皆に慌てて首と手を振る。
「一人で大丈夫!さっきまでは確かにしてたの。来た道を戻ればすぐに見つかるはずだから」
「本当に大丈夫‥?」
「うん、見付けたらすぐ戻ってくるね」
渋々納得してくれたジャグジーと皆にお礼を返して部屋を出る。
俯いてネックレスが落ちていないか調べながら、けれど見つからないままついには車掌室の手前まで来てしまった。
「ない‥」
血の臭いと列車の揺れにプラスして、俯いていたせいか気持ち悪い。
それでも諦めきれず、口元を押さえたまま床を見回していれば。
「お前の探し物はこれか?」
掲げられたネックレス。突然現れた気配に勢い良く顔を上げると、視界に広がった赤。
「ぁ‥っ」
それが何なのかすぐには理解できなかった。
ただ‥全身真っ赤に染まったそれは、凄まじい威圧感と血の臭いを放っていた。
体が震え、喉がはり付き、急激に体温が失われていく。
瞬きすら出来ず、危険信号が頭で鳴っているのに体が言うことを聞いてくれない。
赤が私に手を伸ばす。
これが『線路の影をなぞる者』――そう確信したと同時に、私は生まれて初めて自分の中で意識の途切れる音を聞いた気がした。
**
「‥っと。これは、まずいな」
倒れた体が床に落ちる直前に受け止めたクレアは、困ったように眉を寄せた。
クレアが一度車掌室に戻ってくると、見知った少女が熱心に床を見回していた。
口元を押さえながら気分が悪そうではあるが止める気配のないその行動に、クレアはふと思い出す。
先ほど変なガンマンたちと一緒にいたユウを見つけた時、彼女が慌てて窓を閉めた際にネックレスを引っ掛け、自分が拾っていたことを。
そうしてそれを届けたのはいいのだが‥思い返してみればこの廊下は車掌室からの臭いで酷く空気が悪い。
更に自分はそれを全身に浴びており、大の男さえ恐怖する姿なのだ。
彼女が倒れてしまった原因は間違いなく自分にある、という結論にクレアは至った。
「ラックにバレたら怒られそうだ」
ユウの首にネックレスを戻してから彼女を小脇に抱える。
少女の白い両手足がぶらりと下へと降り歩く度に揺れたが、残念ながらクレアはそれを気遣う程繊細な男ではなかった。
「とりあえず、どっかに寝かせるか」
片手で装飾を掴み、ユウを抱えていることなど何の枷にもならないと言ったように側面を這う。
窓から覗いたがどの部屋にも縛られた乗客やら死体やらがあり、手頃な部屋が見つからない。
死体と同じ空間に寝せておくのはさすがのクレアも良心が働きやめた。
知らない人間ならまだしも、彼女は大切な幼なじみの恋人なのだ。
結局部屋が見つからず一等車輛まで来てしまったクレアは、不意に閃いた。
一等車輛の部屋にあった黒服の死体を投げ捨てれば、一部屋空くのではないか。
クレアはユウを一度一等車輛の屋根におろすと踵を返し、再び装飾に手をかけた。
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