05.少女は自分の生き方について決意する
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「えっと‥『チンギスハン』は国じゃなくて人ですよ‥?」
もう何から訂正すればいいのか、とりあえず一区切りしたところで一言呟いてみる。
「えええっ!?そうなのか!?じゃあ義経がチンギスハンってことか!?」
「確か‥一説ではそういう記録もあるみたいですけど、科学的には否定されてるって本で読んだ気がします」
顎に手を当てたまま唸りながら記憶を引っ張り出す。
「でも、アイザックさんすごいです!色んなこと覚えてるんですね」
「アイザック凄ぉい!」
嬉しそうなアイザックさんをミリアさんと一緒にはやし立てていれば、ぽつりとジャグジーが呟いた。
「なれるのかな、そんな、凄い人に」
「なれるって!ジャグジーは俺らに何十勝もしたディフェンディングチャンピオンなんだからよ!」
「アイザックは凄いんだもん!そのアイザックに勝ったんだから、ジャグジーはすっごく凄いんだよ!」
ディフェンディングチャンピオンって‥何の‥?
多分さっきの謝罪大会のことだと思うけど、未だに発端は分からない。
不意にジャグジーを見れば、何だか思い詰めるような表情をしていて。
「、ジャグジー?」
「乗客の皆は助けるし、黒服達もやっつけるつもりです」
でも、とジャグジーは気まずそうに私たちをちらりと見た。
「僕はそんな立派な人間じゃないよ。きまりを破ってお酒を造ったりもしたし、昨日だって――人を五人も殺したんだ」
「ムガ、違う、殺したの俺達、ジャグジーはやってない。それに、あいつら仲間の仇」
――殺した。
脳に響く言葉。“仲間の仇”そう聞いて浮かんだのは、去年仲間を失ったと話してくれたラックさんの姿。
あの時一瞬肌に感じたのは‥今感じたものと同じ、間違いなく“憎悪”だった。
「んなこと気にするなって!」
そんな私を引き戻したのは、ジャグジーの胸倉を掴み力説するアイザックさんの声。
「ソーソーだって義経だって何人も何万人も何億人も何兆人も殺してるさ!それでも周りの皆がいい奴だって言えばいい奴になるんだよ!」
その通りだと思った。だって私は正に、その環境にいる。
きっとこれは自分勝手な解釈なんだと、それは分かってる。
でも、皆が人を殺していてもそれが決して自分のためだけではないと知っているから。
だからって人を殺していい理由にはならないけど‥それでも私は、彼らが罪を犯していても“いい人”だと言い切る。
それが常識的におかしいことだとしても構わない。私はもう、向こう側――“カタギの世界”には戻るつもりはないから。
‥私の大切な人はみんな裏家業の人ばかりだし、私はそれでいい。
「胸を張って、最後に自分自身を信じるの!」
「信じる‥」
ミリアさんの言葉がやけに心に染みた。
「ありがとう」
次に聞こえた、ジャグジーの言葉も。
私の中にある思いは本心だけど、心のどこかで不安だったのかもしれない。
二人の言葉は私に向けられたものではなかったけれど。
私はどこまでも前向きで明るいこのカップルと、強い心を持った泣き虫な彼に。
救われたのだと‥そう思った。
.