01.目覚めた少女は幸せを実感する
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最近、ラックさんが難しい顔で考え込む姿をよく見るようになった。
それでも‥私が彼の話をきいてあげることはできない。
ラックさんの仕事は普通とは違って話せばただそれだけで巻き込んでしまうからと、以前ラックさんに言われたことがある。
「私に出来ることって何もない‥」
隣で資料を読んでいたお兄ちゃんが私の独り言に顔を上げた。
「本当にそう思うか?」
「だって‥私はラックさんが何か悩んでても何もしてあげられない」
「彼奴の悩みを聞いて、お前が解決出来るとは思えないがな」
尤もな言葉に膝を抱えて小さくなる。
しゅんと肩を落とすと小さなため息と共に頭を撫でられた。
何も言わずに撫でてくれるお兄ちゃんをちらりと見上げると、頭から下りてきた手にむにっと頬を摘まれた。
「うにゃっ‥」
「何も深く考える必要はない」
じたばたと暴れると喉で笑いながら手を離すお兄ちゃん。
「‥まあいい。可愛い妹にひとつだけ助言してやろう」
「‥‥?」
**
ラックさんがコーヒーカップを手に何か考え事をしている。
すっかり冷めて、湯気が上がっていたのはいつだったか。
12月に入ってから寒さは増し、今日は特に冷える。
部屋の中は暖かいけど、温度差でできた水滴が窓を伝っていった。
「‥よしっ」
ラックさんの前まで行ってカップを取り上げる。
「、ユウ?」
珍しくきょとんとしたラックさんに、私はカップをテーブルに置いて隣に腰を下ろした。
もぞもぞと体を寄せてぴったりとくっつく。
「どうしたんですか?」
クスリと笑うラックさんに、私は首を振って手を重ねた。
握り返してくれる手は大きくて、何度見てもきゅんとしてしまう。
「‥私はいつもラックさんのこと見てるから、分かってるんだからね」
少し俯いて拗ねたように呟く。
ラックさんの困惑したような雰囲気を感じながらも私は笑顔を向けた。
「‥‥‥、」
はっとしたように私を見つめるラックさんは、不意に握る力を強める。
「最近‥不意に思い出すんですよ」
遠くを見つめるようにして漏らした小さなため息。
「‥‥1年前、仲間が4人命を落としました」
表情を見ていれば分かった。その4人は“殺された”のだと。
「私は今でも奴らが許せない。そして‥私はその怒りがまだ自分にあることに安心しているんです」
以前、ラックさんが刺されたことがあった。
ベルガさんは怒ってボコボコにすると言ったけど、結局ラックさんが下したのはベルガさんから甘いと不満が出るもので。
小さくため息をつきながら日和ったと呟いていたのを思い出して、妙に納得した。
「‥幻滅しましたか?」
首を振る。そんなことない。私はラックさんのそういう優しいところが大好きだから。
きっとこういうところがマフィアに向いていないと言われてしまう原因なんだろうけど。
繋いだ手はそのままに、もう片方の手でラックさんの腕を抱きしめるように顔を埋めた。
私に出来るのは‥こうして傍にいることぐらい。
お兄ちゃんにもそれでいいと言われた。
ラックさんは私を巻き込むような話はしないけど、こうしてラックさんの感じたことを話してくれればそれだけで。
「‥‥ありがとう」
「こ‥恋人なんだから、当たり前ですっ」
頭上から笑い声がする。
ラックさんの空いた手が髪を梳くように撫でて、そのまま耳に触れた。
「ひえっ‥?!」
「真っ赤ですね?ほら、頬と同じ色だ」
なぞるように指先が触れて羞恥とくすぐったさに体が震える。
「んっ‥‥やあっ‥」
「‥‥‥‥‥‥」
耳の裏を掠めた瞬間ゾクリとして身を竦めた。
「くすぐったい‥」
ピタリと動かなくなったラックさんに首を傾げていれば、来訪を知らせるベルが鳴る。
「私が‥」
立ち上がろうとしたのを制してラックさんが玄関へ。
そうして少しして戻って来たのはラックさんではなく、フィーロさんとエニスさんだった。
「あれ‥?ラックさんは?」
「あー‥ちょっと野暮用で」
「‥‥?」
不思議そうに玄関を見ているエニスさんと苦笑しているフィーロさんに、私は再び首を傾げるのだった。
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