05.少女は自分の生き方について決意する
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「‥‥っ!?」
背筋に悪寒が走った。
疑問に首を捻れば、それを見ていたらしいキー兄に肩を竦めて見せる。
「少し嫌な感じがして‥いや、抗争のことじゃない、と思う」
何と言うか、クレアに電話した時もこんな感覚がしたような気がする。
コーヒーを口に含みながらその思考を脇に寄せ、今はそれどころではないと本題に戻す。
最近の異変としては“薬”が出回っていることだった。
うちでは薬を扱っておらず、シマでも禁止している。
それがどうやら、ルノラータから薬が流れ売買されているらしいのだ。
“ルノラータ・ファミリー”と言えば、うちの組とは比べるまでもない大きな組だ。
そのボスたるバルトロ・ルノラータが本気を出せば、我々の組織など跡形もなくなるに違いない。
しかし今回の敵はボスではなく、幹部であるグスターヴォ・バジェッタという男。
奴は私を殺したと思い込み、更には賭場や酒場、モーテルなどを同時襲撃してきた。
ルノラータはマンハッタンに縄張りを持っていない。
グスターヴォはその中でも、小さく周りの組織とも関係を持たない我々のシマに目を付けたのだ。
「‥あのさ、キー兄」
トランプ越しに視線を受けて、私はカップを机に置いた。
「事が終わるまで、ユウを預かってもらえないかな?」
「‥‥‥‥」
こくりと、その仕草にふっと息をつく。
「ごめん、ありがとう。幸いユウのバイトは5日まで休みだし‥家に一人閉じ込めておくのは嫌だったんだ」
向こうがこちらの情報をどれだけ持っているか分からないが、ユウを危険に遭わせるわけにはいかない。
キー兄の家ならケイト義姉さんもいるし、シマの外だから外出もできる。
――ジリリリリ‥
鳴った音に立ち上がり受話器を上げる。聞こえて来たのは、覚えのある声だった。
「シェリルさん?」
本来なら今頃、列車に揺られているはずだが‥
シェリルさんは私に一言謝罪をしてから事の次第を話してくれた。
『‥だから、ユウちゃんは一人で列車に乗ってるんです。本当にごめんなさい‥』
「なるほど‥事情は把握しました。ユウも何も出来ない子供ではありませんし、気になさらないでください」
『そう‥ですよね。つい妹みたいに思ってしまって、余計な心配までしてしまうんです。過保護ですよね、ごめんなさい』
クスクスと笑う彼女に礼を返す。
過保護なのは私も変わらないと自負しているし、彼女の存在はユウにとって大きなものだ。
それからシェリルさんといくつか言葉を交わし受話器を置くと、私はふっと息をつく。
「ユウが何だって?」
途中で部屋に入ってきたベル兄が椅子の背もたれ越しに視線を寄越した。
「列車に乗ったのはユウ一人らしい」
‥ユウのことだから、シェリルさんを心配させまいと強気で見送ったに違いないが。
その後のしゅんと落ち込んだ姿が想像できて、私は小さく苦笑した。
「つーことは、クレアちょっかい出し放題だな」
「いや仕事中だしそれはさすがに‥」
「‥‥‥‥」
「‥え、無いよね?」
思わず眉を寄せると、次にはベル兄の爆笑が耳を突き、見ればあのキー兄の口角が上がっている。
‥‥‥からかわれた、のか。
「ベル兄、そこにある書類僕は手伝わないからね。キー兄は‥‥特にないからいいや‥」
深いため息を付いてドアに向かう。
ベル兄が慌てたように叫んでいるけれど、私はそのまま部屋を出た。
私はどうも、ユウのことになると頭が回らなくなるらしい。
冷静さを欠いて、判断が鈍る。
こんなことではユウが私の弱みになってしまう。敵は弱みにつけこむものだ、私のその弱さがユウを危険に晒す。
「‥傷つけさせない」
決して、彼女だけは。
***
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