05.少女は自分の生き方について決意する
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「‥大丈夫」
何度自分に言い聞かせただろう。
車掌室から少し離れた通路で、私は一人開けた窓の縁に両肘を付いて顔を埋めていた。
煤煙が風に混じり鼻を突いたけれど、それが血の臭いを薄めて吐き気を抑えてくれる。
もう少し休んでから行動するとラッドさんたちを見送ってから、一体何分経ったのか。
「‥大丈夫、頑張れる」
ネックレスを握って、気合いを入れるように頷く。
夜が明ければ、ラックさんに会える。
そう自分に言い聞かせていたら、突然聞こえた大声にびくりと肩を上げた。
「あああっ!ユウ!!」
「ユウっ!無事だったんだねっ!よかったあ!」
走ってきた二人に力強く抱き締められて、私はぱちりと瞬きをする。
「アイザックさんに、ミリアさん‥?どうして、だって、食堂車にいたんじゃ‥」
「助けに来たんだ!」
「ヒーローだよ!」
びしっとポーズを決める二人に緊張が緩んで、一気に涙が浮かんできた。
「そん、な‥‥会ったばっかり、なのに、どうしてそんなにっ‥」
助けに来た、なんて。
「なっ、何で泣くんだ!?ミリアどうする?ユウが泣いてるぞ」
「うーんと、とりあえずハンカチ!」
二人にハンカチを差し出されて両手で受け取る。
その間も二人は私を覗き込んでは顔を見合わせ、ああでもないこうでもないと解決策を口にしていた。
「じゃ、じゃあダルマをころがそう!確かこうして顔を隠して‥変顔!」
「きゃあ!アイザックおもしろーい!でもダルマは?」
「ん?ああ、そうだな‥ダルマはどこに出てくるんだ?」
「‥ふふっ、それ、間違ってます」
ぐすっと鼻を鳴らしながらも、私は耐えきれずに笑ってしまった。
やっぱり二人の知識はどこか間違っていて、アイザックさんがしたのは“いないいないばあ”だし、言っているのは“だるまさんが転んだ”。
どちらも顔を隠すから重ねてしまったのかもしれないけど‥今のアイザックさんの変顔は面白すぎた。
「おおっ、ユウが笑った!」
「アイザックすっごーい!」
底抜けに明るい二人のおかげで、真っ暗だった気分が少し浮上した気がする。
「ありがとうございます。アイザックさん、ミリアさん」
涙を拭って笑みを返す。
二人はウインクしながら親指を立てると、うんうんと頷いてみせた。
「ところでずっと気になってたんだが‥あれはどういう事なんだ?」
「ミステリーだね!」
私の後ろ‥車掌室を指すアイザックさんに、私は目を伏せる。
アイザックさんが一人様子を見に行く間ミリアさんと待っていると、彼女が突然声を上げた。
「ジャグジー!」
「えっ?」
駅で見た大きな人と共に走ってきたジャグジーはほっと安心した表情を浮かべ。
「無事だったんですね‥‥ユウも」
よかった、と微笑むジャグジーにこくりと頷く。
相変わらず涙が頬を流れて、さっきまで泣いていた私がハンカチを差し出したくなるくらいだ。
「ああ、そうだ、ジャグジー、ゴメンな」
「ゴメンね!」
「いや、本当にごめんよ」
突然謝りだした二人に混乱したように謝り返すジャグジーを眺めながら、そういえば食堂車でアイザックさんたちが話していた事を思い出す。
「あ、引き分け」
「えっ、ユウ何?」
「ごめんなジャグジー!」
「いいいえっあの、ごめんなさい!」
‥‥平行線の一途を辿る、とはこういうことを言うのかもしれない。
結局飛び交う謝罪はジャグジーの後ろにいた大きな人が口を挟むまで止まることはなかった。
「と、ところでユウ、大丈夫だった?」
「ん‥ちゃんと話したから、もう大丈夫だよ」
「僕はあんまり信用できないけど‥ユウのことは本当に大事にしてるみたいだしね」
ジャグジーが髪飾りを見ながら苦笑する。
ニースたちは別行動で一等車輛の様子を見に行ったらしい。
ジャグジーたちもアイザックさんたちも動き回っていたようで、それを聞いた私ははっとして四人に問いかけた。
「車掌さん、見ませんでしたか?」
顔を見合わせて、四人が首を振る。
「そっ、か‥」
「‥どうして探してるの?」
ちらりと、一瞬ジャグジーの視線が車掌室に向く。
私は視線を落として、ぎゅっと両手を握り締めた。
「私の‥大切な人の幼馴染みなの。私は顔を知らないから‥あの二人じゃないってそれは分かったんだけど、どこにいるのか心配で‥」
「そっか‥それは心配だね。で、でもほら!一等車輛の方にいるかもしれないし、ニースたちと合流したら聞いてみるよ!」
「ユウ!車掌はきっと大丈夫さ!ほら、『線路の影をなぞる者』だってきっと車掌は殺さないだろうしさ!」
「どうして?」
「考えても見ろよミリア!悪い子ならこの世にいっくらでもいるのに『線路の影をなぞる者』は何で列車から離れないと思う?」
「うーん、気に入ってるから?」
「そうだ!きっと列車が好きなんだよ!」
「列車オタクだねっ!」
「だから列車を愛している車掌や機関士のことは殺さないさ!」
「じゃ、じゃああの人たちは‥?」
「ん?うーん‥‥黒服が白服と間違ったんじゃないか?なむなむ‥」
「安らかに眠りたまえー」
アイザックさんとミリアさんが車掌室に向かって両手を合わせる。
それから、状況について話し合うためにジャグジーの提案で場所を貨物室に移動することになった。
「ユウー!」
「はやくはやくぅー!」
「あ、はいっ」
離れた場所からの呼びかけに、背伸びをしながら慌てて窓を閉めて皆を追いかける。
「‥‥‥へぇ」
そうして私たちが貨物室の扉を閉めた頃、闇に紛れその影は姿を現した。
「何だよラック、すごいいい娘じゃん」
***
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