04.少女はラッド・ルッソの狂気に怯える
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「おかしいってマジで信じられねってマジで。何でここ血の海なのよ」
声とピチャピチャと血が跳ね返る音が耳に入る。
車掌室に着くとラッドさんだけが中に足を踏み入れた。私にはとても覗くことすらできそうにない。
中がどんな状態かは分からないけれど、ラックさんの幼なじみ――クレアさんは死んでしまったのだと、それが私により一層影を落とした。
「なあなあなあよお、この顔面ない奴ってやっぱあれか、デューンの奴か?」
「‥‥デューン‥?」
「俺たちの仲間だよ。お前にも会わせてやりたかったぜ」
ひょこっと顔を出したラッドさんは大きくため息をついてから嘆き、上がったテンションのまま大きく笑う。
それは言葉に表現するなら多分、“狂っている”と言うのだろう。
無意識に身震いをして体を抱き締めるように力を入れてから、不意に疑問が浮かぶ。
「気を付けろ。この列車にはなんだか知らねえが『ヤバイ』のが居る」
いつの間にか目の前にいたラッドさんは私とルーアさんに真剣な眼差しを向けた。
「っ‥ラッドさん、あの、もう一人の車掌さんは‥若い人でしたか?」
「あん?いや‥中年だったな」
クレアさんじゃ、ない‥?
そもそも、この列車には何人の車掌さんが乗ってるんだろう
私を案内してくれた若い車掌さんは乗っているだろうけど、じゃあその人とクレアさんは‥?
「俺はこれからそいつや黒服を殺しに行くから、お前らはどっかに隠れてろ、な」
“殺す”という言葉に意識が引き戻される。
「お前は俺が殺すんだからよぉ」
鳥肌が立つような恐怖を感じる言葉なのに、ルーアさんは頬を染めて頷く。
この二人は‥本当に想い合ってるんだ‥少し歪んでいるけれど、それは間違いのないことで。
会話を聞いていると、ラッドさんは何かポリシーを持って殺しをしているらしい。
普通の人には理解できないものなんだろうけど、ラッドさんにはラッドさんの考え方があって、大切な人もいて。
「ラッドさん!」
背を追いかけて振り向いたその青い瞳を見上げる。
「あの、私‥っ私は生きるって、絶対にいなくなったりしないって約束した人がいるんです」
怯みそうになりながらもネックレスを握って、私は続けた。
「傍にいるって約束したから、だから‥‥ニューヨークに着いても、私はラッドさんたちとは行けません」
ならばいらないと、今ここで殺されるかもしれない
だけど‥伝えなければ
「‥殺すとか、殺されるとか、そういうのはすごく怖いですけど‥私はラッドさんとルーアさんが嫌いにはなれないんです‥‥だから、その、」
マフィアの傍にいるからだろうか‥
皆は私にそういう話をしないけど、多分ラックさんだって人を殺してる。
だけどそれを除けば、話して笑い合うあの皆が本来の姿なのだと思うから。
私は出来た人間じゃないから、正義よりも今傍で私の名前を呼んでくれる、温かい気持ちにさせてくれる皆が好きで。
世間から見たら私は、カモッラ幹部の妹でマフィアボスの恋人‥なんて、牽制されそうな存在だ。
私にとってはマフィアもカモッラも関係ない、“その人”がどんな人かを無意識に見る癖がついたらしい。
だから言葉にするのは難しいけど、私はラッドさんに恐怖しても、拒絶はできない。
‥‥今更ながら、私はすごい立ち位置にいるのだと自覚させられた。
「嫌いになれない‥ねぇ。お前やっぱおもしれぇよ。殺人狂を嫌いになれねぇとはお前も普通じゃねぇ」
ニッと口角を上げたラッドさんは、私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回して。
「ユウは俺の妹分兼婚約者の友人兼マスコットだ。いつでも訪ねて来いよ」
私はぱちりと瞬きをして、小さく笑顔を返した。
「で――まだあんだろ?」
言ってみろ、とポケットに手を入れたラッドさんに目を丸くする。
ラッドさんは目を見れば分かる、とその青い瞳を指した。
「あの‥私探したい人がいて」
「探したい人?」
「‥はい、それに、食堂車の様子を見たいんです。皆どうしてるのか‥心配で‥」
私が行ったところでどうもならないことは百の承知だ。
でも‥アイザックさんやミリアさん、チェスくんたちやヨウンさんたちの無事を確かめたい。
「お前無謀っつーかなんつーか‥戦えねぇくせに危険に突っ込むかぁ?」
呆れたように片眉を上げるラッドさんはそれでも口元に笑みをたたえたまま。
「つくづく俺をワクワクさせやがる。ルーア、その髪飾りよこせ」
「‥‥はい‥」
「他の白服に会ったら俺に貰ったと言え」
左耳の上に付けられて、私はそっとそれに触れた。
「好きに動け。ただし‥‥死ぬなよ」
「‥‥気を付けてね‥‥」
「‥‥はい!」
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