04.少女はラッド・ルッソの狂気に怯える
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『ユウ、お前に紹介したい女がいる。ニューヨークに着いたらゆっくり話そうぜ』
そう言って白服の集団は食堂車から出て行った。
何かが切れたように放心状態のまま涙を流していた私は、肩を揺すられて目の前にヨウンさんとファンさんがいることに気がつく。
前に片膝を付いたヨウンさんが触れられた時に顔と腕についた血を拭ってくれて。
ベリアムさんが私の背中をさすって、アイザックさんとミリアさんがよく分からない言葉で励ましてくれた。
「‥ありがとうございます、もう大丈夫です」
短時間に色んなことがありすぎて、思考がぐちゃぐちゃだ。
‥一つだけ分かっているのは、私はラッドさんに気に入られたらしいということ。
ネックレスを握って落ち着かせるようにふっと息を吐く。
ざわざわと重なり始めた乗客の声は徐々に不満を帯び、それは列車関係者であるファンさんたちに向けられるようになった。
「君も避難した方がいい」
「コック長に許可は取ったカラ、収まるまで引っ込んでよーネ」
最初は何のことか分からなかった。
手招きされて一歩足を出したところで、怒鳴り散らす声に身を竦めた。
「大体何だこの食堂車は!黄色い猿や田舎臭いアイリッシュを厨房に入りびたらせよって!猿の分際で客として乗るなんぞ‥わしと同じ空間にいるな!」
目が合ったと思った時にはもう、私の体は引かれる方向に動いていく。
荒々しく掴まれた腕が悲鳴を上げる中、恰幅のいい男の人は扉を開けて私を突き飛ばした。
「いっ‥」
転んだ拍子に手首を強く打って捻ってしまったらしい。
ズキズキと痛む手首を押さえながら顔を上げると、蔑みの目が私を見下ろしていた。
「白服に気に入られたんだ、そっちに行け!この移民が!」
拒絶するように閉められた扉の向こうから『手が汚れた拭くものをよこせ!』と再び怒鳴り声がする。
再び浮かんで来た涙をぐっと唇を噛んで止めながら、振り払うように首を振った。
気にしない。気にすることない。
今はそういう時代なんだからしょうがない。一々傷ついていたら、身動きがとれなくなる。
大丈夫‥呟きながら、ラックさんがそう言ってくれたことを思い浮かべた。
立ち上がろうとしたら突然後ろから立たせるように腕を持ち上げられて。
「まだ彷徨いてるやつがいたのか」
「惜しかったな嬢ちゃん。大人しく捕まってくれよ」
黒服の銃を持った男の人が二人私を見てニヤリと笑う。
「っ‥いや‥!」
「おっと」
「行くぞ」
引きずられるようにして廊下を進む間後ろを振り返ると、扉の窓ガラスから心配そうに見つめるベリアムさん親子。
その後ろでは、乗客に押さえられたアイザックさんとミリアさんが見える。
『離せ!ユウを助けに行くんだ!』
『離してよー!』
聞こえた言葉に胸が熱くなった。
さっき会ったばっかりなのに、本気で心配してくれてる。
私は彼らの無事を祈りながら、不意にラックさんの言っていたクレアさんを思い出した。
彼は今どうしているだろうか?車掌なんだからきっと一番に標的にされたはず。
何もされてないといいけど‥
―――この時私は何も知らなかった。
この列車の中で渦巻く陰謀、組織、そして怪物。
それぞれが時を同じくして絡み合い、複雑さを持ってぶつかり合う。
知らず知らず、私はその中心に足を踏み入れているのだと‥
気付いた頃にはもう、逃げることはできなくなっていた。
***
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