04.少女はラッド・ルッソの狂気に怯える
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「‥あ」
電話を切り席についてから思い出した。
そういえばあの列車には、クレアだけでなくあの騒がしいカップルも乗っていたのだと。
「何だ?ラック」
無意識にぽつりと出た声を、部屋に入ってきたベル兄が拾い上げる。
「いや、今ユウから電話があったんだけど一つ伝え忘れて」
「クレアのことか?」
「別のこと。まあ、すごく重要ってわけじゃないから」
教えたところで、ユウが自分から話しかけるとも思えない。
彼女は極度の人見知りだ。
「クレアといやァ‥ユウのこと言ったんだろ?」
「‥‥‥うん」
眉を寄せたのを見て何か悟ったのか、ベル兄は苦笑しながらソファーに腰を下ろした。
やっとお前にも春が来たかとか、全力で可愛がってやるとか、どんな女なんだとか彼の口は止まることがなく。
「あまりにうるさかったから‥こっちに着いてから改めて紹介するから彼女に質問攻めするのはやめてくれって言っておいた」
「ああ‥あいつにまくし立てられたらユウがどうなるか目に浮かぶぜ」
同じ場面を想像しているであろう兄に苦笑して、時計に視線を落とす。
結局一番危険な時に戻ってくるようになってしまったが、ユウはマルティージョ・ファミリーのところかキー兄の家に匿ってもらおう。
問題はあと数日で方が付く。それさえ乗り切ればとりあえずは安心してユウに自由を与えてやれる。
すっかり冷めてしまったコーヒーに手を伸ばすと、キー兄が部屋に戻って来ていつもの席に腰を下ろす。
それを視界に入れながらコーヒーを口に含むとほぼ同時に、ベル兄が私を呼んだ。
「お前、ユウとどこまでいってんだ?」
「ごほっげほっ‥!」
ベル兄に視線をやったものの咳が治まらず、私はしばらく咽せて溜まった涙を拭った。
「ちょっとベル兄何て質問するのさ!」
「あ?付き合えば普通何かしらはすんだろ。しかも一緒に暮らしてんなら尚更‥‥まさかお前、好きな女目の前にして手出さねぇなんて甲斐性なしじゃねぇよな?」
「‥‥‥」
キー兄までトランプを混ぜる手を止めて真剣な視線を送ってくる。
何だろうかこの状況は‥
「‥別に、そういう訳じゃないけど」
「嘘だろ、本当に出してねぇのかよ」
「‥‥ユウにはそういう知識が、その、ないみたいなんだ」
キー兄がトランプを置いた。もう逃げられそうにないと観念した私は、ため息とともにそう零した。
当然、彼女に触れたくなる。しかしそれは、獰猛な欲を秘めていていつ鎖が外れるか分からない。
私にも限界はあるのだ。それを彼女に悟られず接していられるうちはいい。
だがいつか‥私はその鎖が外れてしまうのが怖い。
純粋無垢な彼女に触れれば、その触れた部分から汚してしまいそうで。
「‥お前もフィーロ馬鹿にできねぇぞ」
「‥‥‥」
二人の視線から逃げるようにコーヒーを口に入れる。
「大事にしすぎんのも良くねぇんじゃねえか」
「‥‥ベル兄、もしかしてまたカリア義姉さんと喧嘩したの?」
「‥‥‥」
ぐっと言葉を詰まらせたベル兄にキー兄と共にため息をつく。
「俺のことはほっとけ!」
話が逸れたまま各自仕事に戻ったため、拷問のような時間は終わった。
ペンを動かしながら、私は頭の中でベル兄の言葉を繰り返す。
あながち間違ってもいない、痛いところを突かれたなぁ‥
ふっと息を吐きながらカップに入った最後の一口を流し込み、思考を仕事に切り替えた。
***
.