01.目覚めた少女は幸せを実感する
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「ん‥?やあやあ、ユウちゃんじゃないか!」
声に振り返れば、DD新聞社のエレアンさんが両手を広げて近付いてきた。
その後ろからはニコラスさんも。
「こ、こんにちは」
「相変わらず警戒されてるなぁ‥」
「まあ仕方ないけどねぇ」
別に二人が嫌いな訳ではないけど、身近な人の職業柄どうしても避けてしまう。
どんな世間話でも“情報”として吸収されてしまいそうで。
「それにしてもユウちゃんが事故に遭ったって聞いたときはびっくりしちゃったよ!ガイルの仕業だったんだって?逆恨みなんてねぇ‥けしからんよ全く!」
「そういえば‥奇跡的に無傷だったって聞いたけど本当かい?」
それを聞かれると答えようがない。
他の人なら『分からない』と返せばそれ以上は聞いてこないけど、この人たちは引き下がらないだろう。
現にニコラスさんの瞳が興味を持ったように爛々と輝いている。
「えっと、それは‥」
「秘密ですよ」
二人の後ろを覗き込めば、笑みを浮かべたラックさんの姿。
私は思いがけない登場に嬉しさが隠せず顔を綻ばせた。
「これはこれは‥」
「奇跡は時に真実を明かさないからこそ成り立つものです。そう思いませんか?」
私の隣に並ぶと、二人は若干顔を引きつらせた。
ラックさんはと言えば目が全く笑っていない。これは、外でのラックさんの顔。
「あれから時間は経ったと言え、あまり彼女に思い出させないでいただきたいのですが‥」
「こ、これは申し訳ない!いやぁ、ついねぇ‥そりゃそうだ思い出したくないよねぇ‥‥俺って駄目だよ本当に」
「あ、あの‥?」
「コイツのことは気にしなくていいんだ、こういう奴だから」
俯いてブツブツと呟き始めてしまった。本当に放っておいてもいいのかな‥?
困惑してエレアンさんを見ていれば背中に手を添えられて、私はラックさんを見上げた。
「では、私たちはこれで」
「ああ、失礼」
二人に頭を下げてラックさんに促されるまま歩く。
角を曲がってから、私はラックさんに尋ねた。
「どうしてあそこに?」
「偶然用があって‥それよりユウ、あの二人には気をつけてくださいよ?」
「大丈夫、無理に聞いて来るような人たちじゃないもん」
へらりと笑うと、もの凄い眉を寄せられてしまった。
「やけに嬉しそうですね。何かあったんですか?」
ラックさんは街を歩く時、私を必ず建物側へ置く。
もちろん車道側は危ないというのはあると思うけど、一番はなるべく人との距離をとるため。
まだ移民に対して強い差別意識を持っているこの時代‥私がここに来てから一番に感じた恐怖がこれだった。
私が生活に慣れるようになってからも、通り過ぎ様に蔑むような視線を送ってきたり突き飛ばしてくる人は少なくなかった。
「うん!だって約束もしてないのにラックさんと会えたんだよ?」
今日は遅くなると言っていたから明日まで会えないと思っていたのに。
「嬉しくて、頬弛んじゃうの」
ふにふにと頬を押していると腕を引かれて、視界が暗転。
慌てて顔を上げようとすると背中に回された腕に、私は状況を理解して落ち着いた。
引き込まれたらしい路地裏は人気がなく、一歩出れば人通りが多いのにも関わらずこちらに意識を向ける人はいない。
それが分かっていても視線が気になってそわそわしてしまった。
「ではもう少しだけ。仕事中ですが‥兄たちには内緒ですよ」
頬に集まる熱を冷ますように、外気で少し冷たくなったコートにすり寄る。
ラックさんの腕の中はすぐに温かくなって、私はその幸福感に目を細めた。
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