03.走り出した列車で少女は怪物と出会う
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「‥ん‥‥あれ‥?」
ガタンゴトンと走行音が耳につき、手をついて上半身を起こす。
本を読んでいたはずがいつの間にか寝てしまっていたらしい。
昨日夜遅くまでシェリルさんとおしゃべりしてたからなぁ‥
目をこすりながら見た景色は暗く、備え付けの時計を見ると夕食の時間だ。
のども渇いたしお腹もすいた。
一人で食堂車に行くのは少し勇気がいるけど、貴重な体験だからと自分を奮い立たせてストールを手に部屋を出た。
一等車輛と二等車輛の間にある食堂車ではすでに沢山の人が食事を楽しんでいて、思わず入るのを躊躇う。
外国がどうかは知らないけど、私にしてみれば学校の授業中遅れて教室に入っていく感覚だ。
うぅ‥誰も気にしませんように。
一度深呼吸をしてから扉をスライドさせる。想像していたより少ない視線にほっとしながら、人数の少ないカウンターを目指した。
カウンターにはホームで見た人たちが楽しげに話している。
私はその4人が座るカウンターに一つ席を空けて腰を下ろした。
メニューのようなものを置かれてそれに目を通す。
何にしよう‥久しぶりに中華とか食べたいかも。でもシチューも美味しそうだし‥
悩んでいると視線を感じて顔を上げた私は、じっと向けられる瞳にびくっと肩を上げた。
「あ、わっ‥」
落としてしまったメニューを椅子を降りて拾い上げる。
「あの‥?」
「日本人!」
「当たりだねっ!」
ビシッと二人に指をさされてびくりと身を竦める。
恐る恐る頷くと二人は立ち上がって、私の手を取りながらくるくる回った。
「わっ、えっ、あのっ」
「ほらなミリア!やっぱりそうだったろ?」
「アイザックすっごーい!日本人はオシトヤカって本当だったんだね!」
おしとやか‥?そう言われていたのは一体何年前だったか。
テンションの高い二人に挟まれてぽかんとしていると、助け舟のように後ろから声がかかった。
「驚いているようですし、離してあげた方が‥」
二人は気付いたように謝りながらも私の手を引いて隣に座らせ、元気良く手を上げた。
「俺はアイザック・ディアン!」
「ミリア・ハーヴェントだよ!」
「ぼ、僕はジャグジー。ジャグジー・スプロットっていうんだ」
「私はニース・ホーリーストーンです。よろしくお願いします」
「ユウ・スキアートです」
四人の名前を顔と当てはめて記憶する。
その後の話でミリアさんとアイザックさん、ニースさんとジャグジーさんは恋人なのだと聞いた。
「ユウはニューヨークに何しに行くんだ?旅行か?」
「一人旅だね!」
「いえ、帰るところなんです。元は二人で旅行に来たんですけど、友人は色々あって留まることになっちゃって‥」
「そうだったんですか‥」
歳が近い二人と底抜けに明るいカップルのおかげで、ほとんど人見知りすることなく馴染むことができた。
皆に呼び捨てでいいと言われたけど、年上の人を呼び捨てにするのは気が進まずジャグジーとニースだけはこう呼ばせてもらうことにした。
食事を終えてバーテンのヨウンさんが入れてくれたミルクティーをこくりと飲む。
「、おいしい」
「それはよかった」
「お料理もすごく美味しかったです。ごちそうさまでした」
私が二人に笑顔を向けると顔を見合わせて照れたように頭を掻く。
その様子に小さく笑うと、ニースが頬杖をついたまま目を細めた。
「何かユウさんって可愛いですね」
か、可愛い!?そんなこと言ったらニースは美人さんだし、ミリアさんだって年上なのに可愛い。
最初こそ火傷の痕には驚いたけど、彼女の人柄なのか今は全く感じさせない。
ジャグジーの刺青も彼を見ていれば恐怖は感じなかった。
「ユウって何歳なの?」
ジャグジーが酢豚を口に入れながら首を傾げる。
「女性に年齢を聞くのは失礼だぞ、ジャグジー!」
「親しい中にも礼儀あり、だね!」
「ああっ!そ、そうだよね!ごっ、ごめんユウ!悪気は無かったんだ!」
「それで何歳なんだ?」
「何歳なの?」
「え、ええっ!?アイザックさんもミリアさんもさっきと言ってること違うじゃないですか!」
アイザックさんとミリアさんの微妙に間違った知識はどこからくるんだろう。
慌てるジャグジーを宥めて、私はまた一口ミルクティーを飲んだ。
「この間18になったところです」
「「じゅ‥」」
『18!?』と重なる声に目を瞬く。び、びっくりした‥
「と、年上‥」
「東洋人は幼く見られるからネー」
「‥やっぱり年下だと思ってましたか?」
恨めしげに見上げれば、ジャグジーが慌てながら頬を染める。
「いやっ、そのっ、なんて言うかそんなことはないんだけど、ないとは言い切れないっていうか、」
「ジャグジー落ち着いて」
「東洋人ってすげぇんだな!あれだろ?“女は30越えてから”って言葉は東洋人の若さに驚いたヤツが作ったんだろ?」
「名言だね!」
耐えられず声を出して笑ってしまった。
ジャグジーは慌てすぎだし、アイザックさんはどこで聞いたのか絶対デタラメだ。
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