03.走り出した列車で少女は怪物と出会う
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「わあ‥!」
思わず出た感嘆と共に白い息が上がる。
大陸横断鉄道“フライングプッシーフット号”
英国の王室列車を真似て作られていて、各車輛ごとに一等客室から三等客室まで区分けされているらしい。
「普通振動が大きい車輪の上は三等客室が来るものだけど、この列車は前から順に設置されてるみたい」
ふんふんと頷きながら外観を眺める。
感想は派手の一言に尽きる。とにかく派手。綺麗ではあるけれど、華美ではない‥と思う。
これは私の感想だけど、何というかいかにもお金持ちの世界に存在するような乗り物を象徴しているような。
「これ‥切符高かったんじゃ‥?」
「ん?まあでもせっかくなら満喫したいじゃない。それに、私の長年貯めた貯金舐めてもらっちゃ困るわよ?」
ふふっと悪戯っぽく笑うシェリルさんの趣味は貯金。
これはもう何度も聞いた話で、何かを買うためでもなく、貯めるのが楽しいらしい。
「でもっ、私これに乗れるような金額払ってないですよね?」
行きと帰りの分の料金は、事前にシェリルさんに言われて回収してある。
だけどこの列車に乗るには‥確実に足りていない。
「私からのクリスマスプレゼント!受け取ってくれる?」
「~っシェリルさん大好きー!」
「私もユウちゃん大好きよ」
ぎゅうっと抱きつくと抱きしめ返してくれて二人で笑い合う。
話しながら列車を見ていると、後ろから駅員さんに声をかけられた。
「フォリット様ですか?」
「あ、はい」
「お電話が来ております」
驚きながらもちょっと行ってくると駅員さんに着いていくシェリルさんを見送る。
私は荷物を両手で持ち直し、何の気なしに辺りを見回した。
一番に視界に入ったのは柱に隠れるようにして何かを見ている二人の男女。
西部劇に出てくるガンマンのような格好をした男の人と赤いドレスを着た女の人は、大袈裟な動きで楽しそうに何かを見ている。
‥あの服装と動きでは目立つなというのが無理だと思う。
その視線を追ってみると、これまた目立つ真っ白な集団。
祝いの席で着るような純白のスーツに身を包み、何か話しているようだった。
「見ろよミリア!楽団だ、オーケストラだ!」
次々に作曲家の名前を上げながら見つめる先には、さっきとは正反対の黒い集団。
楽団、と言う通り各人楽器のケースを抱え係員と話している。
同じ列車に白と黒の集団が乗るのって、一体どれだけの確率なんだろう?
ぼんやりと考えていれば、視界に入ったそれに私は思わず目を瞬いた。
「大きい人‥」
あんなに大きな人は初めて見た。
ベルガさんも大きいけど、あれでは比べるまでもない。
その傍らには金髪の女の子と茶髪の男の子がいて、後ろ向きだったものの楽しそうに話しているのが見えた。
「ユウちゃん!」
息を切らして走ってきたシェリルさんは勢いよく顔の前で両手を合わせた。
「ごめんっ!今の電話おばあちゃんからだったんだけど、おじいちゃんが釣り中に腰やっちゃったらしくて‥」
「えっ!?」
「それでおばあちゃんだけじゃ面倒見きれないから戻ってきてほしいっていうのよ。おばあちゃん一人じゃ心配だし戻ろうかと思うんだけど‥」
こくこくと頷く。おじいさんも心配だし、おばあさん一人じゃ色々大変だろう。
「でも‥ユウちゃん一人で帰れる?」
はっとする。そうだ、シェリルさんが戻ると言うことは私は一人になるんだ。
払い戻しはないし、二人分の料金を無駄にする訳にもいかない。
「‥大丈夫、です。だから早く行ってあげてください!」
「ユウちゃん‥本当にごめんね!これ切符、車掌さんに見せれば案内してくれるから」
切符を握らせるともう一度私をぎゅっと抱きしめて、名残惜しそうに走って行った。
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