03.走り出した列車で少女は怪物と出会う
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「ユウさん、おかわりはどう?」
「ありがとうございます。でももうお腹いっぱいです」
「ばあさん、だから作りすぎだと言ったろう」
「張り切ると量の加減ができなくなるの、おばあちゃんの昔からの癖よね」
長い間列車に揺られ、シカゴから車に乗って田舎町にやってきた。
寝台車に乗るのは生まれて初めてで、私があまりに興奮していたからかシェリルさんに笑われてしまったけど。
迎えてくれたおじいさんとおばあさんはとても優しい人で、家族のように接してくれた。
「ユウさん、釣りに行こうと思うんだがどうだい?一緒に」
シェリルは行ってくれないんだと拗ねたように言うおじいさんが可愛くて、私は笑顔で頷いたのだった。
「ちょっと持っていてくれるかな」
竿を預けられて水面を眺める。
緑の広がる丘から流れてくる川の水は覗き込むと下が透けて見えて綺麗で。
見上げれば青空に雲が浮かび、穏やかな時間に目を閉じれば寝てしまいそうだ。
ラックさん大丈夫かなぁ‥
詳しくは聞かなかったけど、やっぱり今お仕事の方が立て込んでいるらしい。
クリスマスは結局お家でのんびり過ごした。
ラックさんが夕飯(レストランで食べているみたいだった)を作ってくれて、プレゼントを交換して。
ラックさんは申し訳なさそうだったけど、私は一緒に過ごせるだけで、そうして考えてくれただけで十分だった。
「わっ‥」
ぼんやりと考えていたら、くんっと竿が引かれて我に返る。
ぐいぐいと引っ張られるそれに力を込めながら、意外と強い力に膝を付いた。
「おじいさんっ、これ、どうしたら‥」
「おぉ、これは大物だ!糸が切れないようにゆっくり竿を引きなさい」
騒ぐ私と指示をだすおじいさんの声が辺りに響き、釣り上げたときには二人で疲れて座り込む。
バケツに泳ぐ魚がパチャンと跳ねて、私は何だか可笑しくて笑ってしまった。
「ユウちゃーん、おじいちゃーん、お茶にするよー!」
「わ、はーい!おじいさん、このお魚どうするんですか?」
「逃がして帰ろう。せっかく釣ったが、この魚は身が少ないんじゃ」
片付けを済ませてお魚に別れを告げ、私とおじいさんはシェリルさんと合流。
「退屈しなかった?」
いつの間にか髪についていたらしい葉っぱを摘んで取ってくれるシェリルさんに首を振る。
「いえ、楽しかったです!私大きいお魚釣ったんですよ」
「ユウさんは素直にアドバイスを聞いてくれたからのぉ。シェリルは全然聞かんから釣れないんじゃ」
「素直じゃなくて悪かったわねっ。私はきっと魚釣りに向いてないの」
楽しい時間はあっという間で、明日のお昼にはここを発つ。
夕飯は私も手伝いながらおばあさんにレシピを教えてもらったりして。
明日の午前中には編み物を教わる約束もした。
私に祖父母がいたらこんな感じだったのかな‥
両親共に早くに親を亡くしていて、私に祖父母はいなかったから。
それを知ったおじいさんとおばあさんは、ここを実家だと思って構わないと言ってくれて。
可愛い孫が増えたと嬉しそうに笑うから思わず泣きそうになってしまった私。
そんな様子を見て慌てて頭を撫でてくれたおじいさん。
あまりの慌てっぷりにシェリルさんとおばあさんが笑って、私もつられるように一緒に笑った。
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