02.少女は迫る気配を無意識に感じ取る
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***
「にゃー、落ち着く‥」
いつもラックさんが寝ている方にごろんと寝転がって、俯せに埋もれる。
ラックさんの匂いにほんのりしながら、ぱたぱたと脚を動かした。
「寛いでますね」
「んー‥‥‥えっ!?」
がばっと体を起こすと、扉に寄りかかっているラックさんがいて。
帰って来たの全然気づかなかった‥
「お、おかえりなさい‥」
クスクスと笑うラックさんは、上着を脱いでただいまと返してくれる。
「何してたんですか?‥私のベッドで」
傍らにしゃがんでベッドに肘をついたラックさんは、わざと強調するように囁いて私を覗き込んだ。
「えっ、えっと、そのっ‥」
「ん?」
「‥‥ラックさんの匂いに、埋もれていたくて」
もごもごと声を落としながら、恥ずかしさに耐えられず頭からシーツを被った。
「ごめんなさいぃ‥今の忘れてっ‥」
「嫌です。そんなに好きなんですか?私の匂いが」
シーツから瞳を覗かせて、羞恥で泣きそうになりながらこくりと頷く。
「なら、どうぞ」
そう言いながらベッドに座ったラックさんに、私はのそのそとシーツから這い出てラックさんの腕に収まった。
片膝に座ってこてんと肩に頭を預けながら、ふうっと息を吐く。
「‥‥‥ラックさん」
なでなでと繰り返されるそれは気持ちいいけど、はたと気付けば今の状態は。
「子供扱いしてる?」
「気付きました?」
むくれる私に笑いながら謝るラックさんは、まったく反省してなさそうだ。
でも、久しぶりにこうしてラックさんに甘えられるのが嬉しくてそのまま和む。
不意に今日のシェリルさんとの会話を思い出して、むくりと体を起こした。
「そういえばね、今日シェリルさんに田舎町の写真を見せてもらったの」
シカゴから車で40分程度行ったところにあるその田舎町は、シェリルさんのおばあさんが住んでいるらしい。
「すごく可愛いお家がいっぱいあってね、空気も澄んでて、近くを綺麗な川が流れてるんだって」
興奮気味に話す私にラックさんが相槌を打つ。
ラックさんは聞き上手だから、つい止まらずたくさん話してしまった。
「好きなんですね」
クスクスと笑うラックさんに我に返る。
元々外国の街並みが好きで、石畳も三角屋根のお家も、日本とは違う景色は私の興味を捕らえて離さなかった。
いつか海外旅行に行きたいとは思ってたけど、まさか永住することになるなんて。
「それでね、その。シェリルさんが月末におばあさんに会いに行くから、一緒にどうかって言ってくれて‥」
紅く染まった頬を押さえながら、ちらりとラックさんを見る。
「行ってきちゃ、だめ?」
「月末ですか‥」
考えるようにじっと見つめられる瞳。
「26日の朝に出発して、30日発の列車に乗って帰ってくるんだって」
「‥実は‥私もその辺りが一番忙しくなりそうなので、ユウが行きたいのであればシェリルさんにお願いしましょう」
「ほんとにっ?」
初めての遠出に期待感を膨らませながら、ぎゅっとラックさんに抱き付いた。
「(‥‥私がいない分、ラックさんも仕事に打ち込める)」
二つの想いを胸に、ゆっくりと目をとじる。
今の時間がただただ幸せに感じて、私の名前を呼ぶ声がたまらなく愛おしくて。
私は返事の変わりにすり寄るように顔を埋めた。
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