02.少女は迫る気配を無意識に感じ取る
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「お兄ちゃん、ありがとう」
「急にすみませんでした」
翌日、アルヴェアーレにラックさんが迎えに来てくれて、車の中から顔を出した。
手を上げたお兄ちゃんを振り返りながら、私はぽふっと席にもたれかかる。
「ユウにも迷惑をかけましたね」
信号で車が止まると頭を撫でられて、ふるふると首を振った。
「このまま家に‥と言いたいところなんですが」
しばらく車を走らせると街の一角、路上に停止させる。
「シマを彷徨いている連中がいるようなので、兄たちとも話したんですがユウには今日からキー兄の家に泊まってほしいんです」
予定では明後日キースさんのお家にお邪魔する予定だった。
「バイトにはケイト義姉さんが送ってくれますし、着替えは今‥」
ラックさんの視線を追って顔を上げると、歩道を歩く荷物を持ったケイトさんが見える。
「ユウを危険な目に遭わせるわけにはいきません。キー兄の家はシマの外にあるので‥」
途中で言葉を止めたラックさんの手が、優しく頬を撫でる。
「‥そんな顔しないでください。少しの間ですから」
「‥‥ん」
「明後日は予定通り私も泊まりに行きますし、クリスマスは一緒に過ごしましょう」
「‥ほんとに?いいのっ?」
頷くラックさんに、頬を包む手をとってぎゅっと握り締めた。
コンコンと一度鳴ってから後部座席のドアが開く。
「ケイト義姉さん、ありがとうございます」
「はい、鍵。ユウさんこんにちは、久しぶりね?」
「はい!会えて嬉しいです」
後ろを振り返って笑顔を返す。
発車してからも振り返ろうとすると危ないとラックさんに注意されて、その度にケイトさんに笑われてしまった。
家に到着して、ラックさんが荷物を持ってくれてケイトさんに続く。
「ラック、ユウさんを部屋に案内してあげて?」
「ユウ、おいで」
パタパタと後を付いていけば、前に私が目を覚ました部屋だった。
荷物を置くラックさんを横目に窓から外を眺める。
今日は快晴で、前の時とは少し違って見えた。
「何か見えますか?」
背中から温かさに包まれる。
小さく飛び跳ねて、首に回った腕に触れながら肩ごしに振り返った。
「み、耳元でしゃべるのだめ」
真っ赤になっているだろう顔を隠すように腕に埋めると、クスリとラックさんが笑って。
「どうして?」
「っ~!」
‥絶対わざとだ。
ラックさんの声はただでさえ兵器なのに、こんなに傍で囁かれたら。
「もうっ」
背中がゾクゾクして脚に力が入らなくなる。
耳を塞いでラックさんを睨むと、ラックさんはクスクスと笑いながら正面からぎゅっと抱きしめてくれて。
「‥‥本当は、あのままロニーさんにお願いしてもよかったんです」
「‥?」
「貴女を安全な場所に置いておけるのなら‥わざわざ場所を変える必要はなかった」
腕の中から顔を上げると、まっすぐ降りてくる視線と重なった。
「私にとっての一番安全な場所を選んだんです。兄に頼んで。‥この意味が分かりますか?」
‥お兄ちゃんの言っていた通りだ。
こくりと頷く私に苦笑して、頭を撫でてくれるラックさんに。
この溢れるくらい大きな気持ちが伝わればいいと、私は背中に回した腕に力を入れた。
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