02.少女は迫る気配を無意識に感じ取る
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お兄ちゃんに事の次第を話たら、あっさりOKをくれて、帰宅途中にレストランに入った。
話題はフィーロさんたちとの話やバイト先でのこと、普段の生活のこと。
ほとんど私が話してお兄ちゃんが相槌をうつものだけど。
話題がお兄ちゃん家お泊まり計画に触れると、不意に口角が上がった。
「お前が俺の家に泊まると話した時の奴の心中はさぞ穏やかじゃなかっただろうな」
クツクツと喉を鳴らすお兄ちゃんに首を傾げる。
確かに、少し間があったような気がしたけど‥
「いくら兄弟とはいえ、お前と俺が家族以上の感情を持ってないとはいえ、奴にすれば面白くないに決まっている」
「‥面白くない?」
「自分の女が自分以外の男の家に泊まるんだからな」
‥そう、なのかな?
ラックさんは普段お兄ちゃんが抱きしめたりしてきても何も言わないから大丈夫じゃ‥
「出てることもある」
「へっ?‥何が?」
「殺気。本人も気付かないほど無意識に微弱だが」
それって‥要するに、
「‥‥ヤキモチ?」
それは、なんて言うかすごく、嬉しいかも‥
「今度見せつけてみるか?面白い反応が見られるぞ」
「えっ‥」
み、見たいっ‥!
けど、何だかんだでその後が怖そうだから‥‥
「‥や、やめておきます」
「ほう」
ニヤリと笑うお兄ちゃん。
お兄ちゃん‥絶対楽しんでる!
頬に熱が集まるのを感じながらむっとお兄ちゃんを睨む。
お兄ちゃんはその視線を軽く流しながら、食べ終わった様子を見て席を立った。
家に着いて、私はお兄ちゃんに続いてクローゼットの前で待つ。
その間、ぼうっとお兄ちゃんの言葉を思い出した。
そっか‥お兄ちゃんは男の人で、この世界に来るまでは他人だったんだよね‥
それはラックさんも知っていて、だけどもし私が逆の立場だったら‥確実に不安になっている自信がある。
「お兄ちゃん、私どこで寝ればいいの?」
「ベッド」
「‥じゃあお兄ちゃんは?」
「ベッドで寝るに決まってるだろ」
「‥‥二つある?」
「あると思うか?」
‥だよね。聞いてみただけ。
ラックさんと同じベッドで寝るのはいいのに、何だか少し緊張してきた。
あれ‥?でも考えてみたら、普通反対だよね‥?
悶々と考えていたら何か被せられて、ふぎゃっと思わず変な声が出た。
「これでは心配にもなる」
「へ‥?」
「ユウは他の人間より自覚が足りない」
被せられたシャツを取って見上げると、私の顔を見てため息をつくお兄ちゃん。
「こんなのと暮らしていて、奴は良く耐えているな」
「‥‥こんなの」
むっと口を尖らせると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられそのままバスルームに押された。
お兄ちゃんの家は、やっぱりお兄ちゃんの匂いがする。
煙草と蜂蜜が少し混じっていて、ラックさんとはまた違う落ち着きが私を安心させる。
お兄ちゃんが貸してくれたシャツは体格がラックさんより大きい分、尚更肩幅が余ってしまった。
シャツの丈は相変わらず高校の制服と変わらず、お兄ちゃんのは少し長いくらいだ。
袖を折りながらペタペタと部屋に戻ると、煙草を灰皿に押し付けているところで。
手を一振りしたら漂っていた煙が無くなったのは‥見なかったことにしよう。
「‥‥もっと抵抗すると思ったが」
「何に?」
指をさされて納得する。
シャツを摘んで見下ろしてみても、やっぱり特に抵抗もなかった。
「私の時代ではこれぐらいの丈、当たり前だったから」
「お前の時代の当たり前はどれも恐ろしいな」
クツクツと笑って反対の袖を捲ってくれたお兄ちゃんは、先に寝ていろと言ってバスルームに入って行く。
私は欠伸を漏らしながら髪を拭いて、言われた通りベッドに入った。
「ラックさん、まだお仕事してるのかなぁ‥」
不死者だからって体を酷使しているように感じる時がある。
もしかして、不死者になる前からああだったのかな‥?
考えたらぞっとして首を振る。
忙しくてもちゃんと寝てほしいって、今度お願いしてみよう。
色々考えている間に目蓋が降りてきて、お兄ちゃんが戻って来る前に私は眠りに落ちた。
もうすぐクリスマスが来て年が明ける。
最近何か嫌な感じはするけど‥‥それがまさかあんな災厄が近付いているなんて、私は全然気づかなかった。
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