02.少女は無意識に人を魅了する
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「ユウ」
未だ夢の中にいるユウに声をかけると、小さく唸りながら体をもそもそと動かす。
顔にかかる髪をよけてやると、目を擦りながらゆっくり目を開くユウに笑いが漏れた。
「おはようございます」
言えば、呂律の回っていないそれで挨拶が返ってくる。
むっくりと起き上がり目を擦る様は、猫そのものだ。
「今日は仕事が早く終わりそうなので買い物に行きませんか?」
「お買い物‥?」
あれから3日、ユウは私に心を開いてくれたようだ。
ビクつくこともなくなったし、目を見て、よく話すようになった。
「いつまでも私の服では嫌でしょう?」
幾重にも折り曲げられたそれを見ると、改めて体格の差を思い知らされる。
ユウは小さい。容姿も幼く、せいぜい十四歳くらいだと踏んでいた私は十七歳だと聞いて驚いた。
‥同時に安心したのは‥未だ自分でもよく分からないが。
東洋人が童顔だとは聞いていたが、まさか皆こうなのだろうか?
ふと思い出してユウの顔を眺めると、ユウが首を傾げている。
「? 嫌じゃないよ?」
「‥‥‥」
わざとではないのは分かるがこれは‥
内心苦笑を漏らし、私はユウの頭を撫でる。
「困るでしょう?そんな格好では、外に出られません」
「、あ、そっか‥でも、私、お金持ってないです」
敬語は癖だからユウは普通でいいと言ったのだが、話しているとたまに敬語が入る。
ユウいわく、私の敬語につられるらしい。
「そんなの私が出しますよ」
「でもっ、」
「ああ、もう行かないと。昼食はテーブルの上です」
時計に目をやってもう一度撫でてやると、ユウは口をぱくぱくさせている。
「あ、のっ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
うちに来た当初からそうだが、ユウは必ず私が家を出るときこれを言ってくれる。
帰ってきたときは「お帰りなさい」と。
それがどんなに、私を暖かな気持ちにさせるのか‥
彼女は気づいていないだろう。
***
青空が広がる昼下がり。
私は相変わらず、時間を潰しながら英語の勉強をしていた。
ラックさんが普段の生活を交えながら教えてくれるから、こうして復習するだけですぐに覚えられた。
「んーっ‥」
ぱたり、とソファーに倒れ込む。
窓から見える空を眺めながら、私は前髪に触れた。
ラックさんは、よく頭を撫でてくれる
私はそれが好きで、あの大きな手が触れる度に、すごく安心するんだ
だけど同時に‥‥すごくドキドキもする
「‥‥へんなの」
首を振って、ただその時間に体を預けた。
雲がゆっくり移動して、外からは車の音と話し声がする。
そんな穏やかな空間で、私がうとうととし始めた頃。
ドンドンドンッ!
壊すような勢いで叩かれるドアに、びっくりして飛び起きた。
ドンドンッ!
「ラック!ラーック!いねぇのかァ!」
ドスの利いた声ってこういうのを言うんだろうか、ドアが叩かれる度に空気が震える。
ラックさんには誰か来ても開けるなと言われている。
こんなに怖そうな人、言われてなくても私からは絶対に開けないけど‥
今日はフィーロさんはもちろんエニスさんもいない。
どうしようかとソファーでじっとしていると、ノック音が止んだ。
「‥いなくなった‥?」
ほっとしたのも束の間、
「ったくよォ、アイツも物好きだな!こんな場所に住むなんざ‥なァ、兄貴!」
「‥‥‥‥」
ガチャガチャと音がしたかと思うと勢いよくドアが開く。
「あれはっと‥お、あそこか!」
あまりに驚きすぎてソファーの隅で固まっている私の前を、ドスドスと体格のいい男の人が通り過ぎた。
私には気づいていないようで、その人はラックさんの机を漁っている。
もう一人の細身で長身の人は、入ってくると私に気づいたように視線を向けた。
「ひあっ‥」
「‥‥‥」
私がびくりと身を固めると、その人はただじっと私を見るだけで。
そのうち机をから封筒を取った男の人が振り返って、その人の視線を辿って私にたどり着く。
「なんだ、おめェ」
私がまたびくりと肩を揺らすと、その人が近づいてきて。
「やっ‥」
「おっと、逃げるなよ?」
逃げようとした私は、あっと言う間に捕まって肩に担がれてしまった。
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