10.雨は少女に幸福を齎す
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***
「ユウとラックがねぇ‥」
わざとらしく視線を向けてくるフィーロさんに身を縮める。
「冗談だよ、よかったな」
ポンポンと撫でてくるフィーロさんは優しく笑っていて、私は大きく頷いた。
「‥‥何故あいつなんだ」
「え?」
「ユウなら寄って来る男も少なくないでしょう。その中で彼を選んだ理由は?」
「‥‥ロニーさんもマイザーさんも質問が本気すぎで怖いですよ」
「男の人寄ってこないよ?」
私は苦笑しつつ、離れたテーブルでキースさんたちと話しているラックさんを見やった。
「ラックさんの好きなところはね、全部。優しいところも、怒ってくれるとこも、少し不器用なとこも全部好き」
きっと言い出したら止まらなくなる。
呆れたように目を細めているフィーロさんと目が合って、私ははにかむように笑った。
「そうですか‥」
「‥‥‥‥」
「何がっかりしてるんですか!」
「ユウはホントに男を骨抜きにしちまうねぇ!」
豪快に笑いながら、セーナさんが通り過ぎ様にお兄ちゃんの肩を叩く。
若干咽せながらセーナさんを睨むものの、既にその姿は奥に消えていた。
「しかし‥以前ユウに好意を寄せている青年がいましたよね?」
「なっ‥」
「あー、ありましたねそんな話。で、どうなったんだ?」
「何でそんなこと知ってるんですかぁ‥」
テーブルにうつ伏せる。紅い顔を隠すように目だけ見えるように出しながら、私は唇を尖らせた。
「そのときはもうラックさんのこと好きだったから‥」
顔が熱い。きっと煙出てる。
小さく唸っていれば、後ろから聞こえた声にぴくりと体を竦ませた。
「何の話してるんですか‥」
「何って、お前らの話」
「‥‥何の為に?」
「「「情報収集」」」
「‥‥‥‥」
逃げるように立ち上がるとお兄ちゃんに抱き込まれて、抵抗したものの断念。
助けを求めてラックさんを見つめれば。
眉を寄せて、珍しく視線を泳がせてから私に手を伸ばした。
「‥‥‥‥」
「お兄ちゃんラックさん睨んじゃだめ!」
「ロニー、大人気ないですよ」
「ラック、俺は応援するぜ?」
「‥既に悪意を感じるんですが」
暖かい。やっぱり私は、この世界に戻って来られてよかった。
「ユウ?」
「何だよニヤニヤして」
「だってね、お兄ちゃんがいっぱいいるみたいで、家族が増えたみたいで嬉しいの」
マイザーさんにフィーロさん、ベルガさんもキースさんもマルティージョ・ファミリーのみんなも。
「ユウがそう慕ってくれるのなら、私は嬉しいですよ」
「おいランディ、ユウが俺らのこと兄貴みたいだってよ!」
「ユウは俺たちの妹だ!」
「まァどうせラックと結婚すりゃ俺らは義兄弟になンだろ」
「キースまで何だその納得顔。おいラック、今こいつらすごいこと言ったぞ?」
頭を抱えたラックさんはため息と共に首を振る。
いつの間にか皆周りに集まっていて、皆喜んでくれているみたいだった。
「ユウ!俺らのこともお兄ちゃんって呼んでもいいんだぜ?」
「おう!大歓迎だっ!」
ランディさんとペッチョさんが身を乗り出す。
私は首を振って、未だに離してくれないお兄ちゃんに寄りかかった。
「皆お兄ちゃんって呼んだら分からなくなっちゃいます。それに‥お兄ちゃんが拗ねちゃうから」
私は“ユウ・スキアート”。彼をお兄ちゃんと呼べるのは、私の特権だから。
「俺が拗ねる‥か。面白いことを言う」
「だって、眉間に皺寄ってたよ?」
「‥‥まあいい」
くしゃくしゃと頭をかき混ぜられて解放される。
ラックさんに直してもらいながら、未だ口論を続ける皆に顔を見合わせて笑った。
***
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