10.雨は少女に幸福を齎す
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上気した頬、無防備にさらけ出されたうなじ、触れればぴくりと肩を跳ねさせ小刻みに震えている彼女。
取った腕は折れそうなほど細く、振り返り潤んだ瞳と視線が重なった時にはもう、私は酔わされていた。
同じシャンプーを使っているはずなのに甘く香るその髪が指の間を流れる。
止められなかった。理性などもう、いつ飛んだのか覚えていない。
「‥‥‥‥っ、」
目を見開いたまま真っ赤になったユウが私を見上げている。
そんな彼女を見て初めて、私は自分の行為を自覚した。
「‥‥私は、」
ビクリと肩を跳ねさせたユウ。
‥私は最低な事をした
彼女が私を拒絶しても仕方がない
時間は戻せない‥そんなことはとうの昔に解りきっている
「ユウ‥っ」
彼女をきつく抱き締める。これが最後だと、自分に言い聞かせるように。
「‥‥私は、貴女の居場所を奪いたくなかった」
それでも、もう。
「もう‥私は貴女をただの家族には見れない」
「‥‥?」
彼女から困惑が伝わってくる。
更に力を込めてから、私はそっと彼女の体を離した。
「私は、ユウが好きです」
「‥え‥‥?」
「‥一人の男として、私は貴女を愛してしまいました」
彼女の髪を梳く。愛おしい。どうしようもなく、ユウに触れたくなる。
私は彼女の頬に伸ばした手を引き、ベッドに置いた上着を取った。
「混乱‥させてしまいましたね。今日は事務所で頭を冷やします。ゆっくり休んでください」
一緒に手に取ったシーツを彼女の肩に掛ける。身を起こした私の腕を、ユウが両手で握りしめた。
「‥すみません、ユウ。今は貴女の傍にはいられない」
「ちがうっ‥」
違う、と彼女は涙ぐみながら何度も首を振る。
「っ‥わたし、ずっとラックさんが好きで、でも、言っちゃいけないって思っ‥」
‥彼女は今、何て言った?
――ずっと好きだった?ユウが、私を?
「言ったら、もう一緒にいられないって‥思って」
次々と頬を流れる涙が私の手に落ちる。
「っ‥行かないで‥‥ラックさん、置いて行かないで‥!」
「‥‥っ」
ベッドのスプリングが音を立てる。
左手首を押し付けるように彼女の体を組み敷いた。
「何故貴女はそうも‥私を掻き乱すんですか」
付いた手は無意識に力が入りシーツが皺を作っている。手首を離し彼女の頬に滑らせ、流れる涙を拭った。
「分かってるんですか‥?私は普通の人間ではない。私と関係が近くなればそれだけ危険、が‥」
頬に置いた私の手に小さな手が重ねられ、頬をすり寄せたユウ。
‥‥ああ、もう。
「‥嫌だったら、押し返してください」
きょとんとしたユウにゆっくり口付ける。
重なった途端ユウはキュッと目を閉じ、怖ず怖ずと背中に回された手がシャツを握った。
彼女はどれだけ私を煽れば気が済むのだろう?
これが無意識なのだから、私はこれから闘わなければならないものが増えたらしい。
「‥愛してます。ユウ」
抱き締める。彼女の存在を確かめるように、強く。
腕の中で頷くユウに、不意にこれが幸せなのだろうかと思う。
湧き上がる感情は久しぶりすぎて、理解するのに時間がかかった。
「夢じゃない‥?」
「‥夢だと思うんですか?」
唇が触れそうな距離で、彼女は目を伏せ小さく首を振る。
肩口に顔を埋めたかと思えば、強まる腕の力に。
「‥大好き」
くぐもって聞こえた言葉に、私はそっとその額にキスを落とした。
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