09.物語は少女を終末へと誘う
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
***
「とにかく、今日はもうすぐ寝ろよ」
「おやすみなさい」
フィーロさんとエニスさんに頭を撫でられてこくりと頷く。
時間も時間だし、お酒の力もあって眠くてぼんやりしてしまう。
車の中は正に睡魔との戦いだった。
「ユウ、着替えて顔を洗わないと」
「‥ん」
のたのたと洗面所で化粧を落としてから、髪を解いてふるふると首を振る。
少し覚めた頭で寝室に向かい、ドレスに手をかけたところで。
「はえ‥?」
‥‥‥届かない。
背中に手をやるものの、所謂コルセットのように背中で交差する紐が一人で解けるはずもなく。
“――そうそう、ドレスは一人じゃ脱げないからラックさんに手伝ってもらってね”
「~っ‥!」
シェリルさんの手紙の一文を思い出す。忘れてた‥!エニスさんに手伝ってもらおうと思ってたのに‥!
その後悪戦苦闘するも結果は撃沈。
どうしようかと悩んでいれば、ドアがノックされて肩を跳ねさせた。
「ユウ、着替えましたか?」
どうしよう‥!
黙っていれば、少し真剣味を帯びて私の名前を呼ぶ。
私は恐る恐る、ドアを開けてラックさんを見上げた。
「何かあったんですか?具合でも‥」
「ち、違うの‥」
不思議そうにするラックさんに、私は背中を向けて肩越しに振り返る。
「紐が、解けなくて‥」
つい声が小さくなる。
恥ずかしさに耐えられず目を伏せたものの、返事すらないラックさんをそっと見上げてみた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥、」
「あのね、だから‥紐緩めてもらってもいい‥?」
‥‥ラックさんが、固まって動かなくなってしまった。
どうしよう、呆れられた‥?
不安になってラックさんの袖を掴むと、はっとしたように私を見た。
「は‥‥いや、‥分かりました」
髪が邪魔にならないように前に持ってきて、ラックさんが屈まなくて済むように二人でベッドに腰を下ろす。
「あっ」
不意に思い立って、もらったプレゼントから一つの箱を取って再びベッドによじ登った。
「ラックさん、これ付けて付けて」
ラックさんに貰ったシルバーの小さな羽がモチーフになったネックレス。
「今、ですか?」
「うんっ、ずっと付けておくの。私の宝物で、お守り代わり」
目を丸くしたラックさんはふっと笑って、ネックレスを手に取り。
ベッドに上げた片足に体重をかけるようにしてぐっと距離を縮めた。
正面から、まるで抱きしめられているみたいで。
ラックさんの息が耳にかかる。私はぎゅっと目を瞑って、終わるのを待った。
「やっぱり‥よく似合いますね」
離れていく気配に合わせて目を開ける。ネックレスに触れて、私はふわふわと上がっていく気持ちを隠しきれず笑顔を浮かべた。
「あっ!あの、お願いします‥」
本来の目的を思い出して、もそもそとラックさんに背を向ける。
両手で頬を押さえて弛みそうになるのを耐えていた私は。
背中にラックさんの指が触れた感覚を布越しに感じて、トクンと胸が跳ねた。
さっきまで嬉しさで満たされていた心が、余裕をなくして早まっていく。
妙に緊張して、我慢しようとする程体が震えてしまって。
ぴたりと一瞬手が止まったものの、再び背中に指が触れた。
シュル、と布と紐が擦れ合う音。
静かな部屋に反して私の心音はうるさいくらいに上がっていく。
燃えるように顔が熱い。
きゅっとスカートを握って、止まった仕草にやっと終わったのかと安緒した時。
首筋に触れた、柔らかな感触。
「ひゃっ――!?」
驚いて振り返った私の手首をラックさんの大きな手が掴み、左手は頬を掠め髪を梳いて後頭部に添えられて。
まるでスローモーションのような、それなのに私は瞬きすらできず。
ギシッとベッドが軋む。
色っぽい、なんて男の人に言うのは間違ってるかもしれないけど。
捕らえられて、吸い込まれて‥目が離せない。
「ユウ」
反響する。ジワリと滲むように私の中に溶け込んで、私はもう、視線すら逸らせなかった。
「‥‥ラックさ‥」
「‥黙って」
遮るように、低く掠れて発せられた短い言葉。
私が無意識にラックさんの服を握った時‥ゆっくりと、唇が重なった。
***
.