09.物語は少女を終末へと誘う
名前の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『誕生日おめでとう!』
アルヴェアーレのドアを押すと、迎えたメンバーにユウが目を見開き動きを止めた。
瞬きすらしないユウの前に翳した手を振ってみるが無反応。
そんな彼女に皆が笑って、ロニーさんが頬を摘んだ。
「ふひっ‥?おひいひゃ‥?」
「覚醒したか?ほらユウ、今日はお前が主役なんだからな!」
「フィーロさん、あの、主役って‥」
離された頬をさすりながら首を傾げるユウに、マイザーさんが中心へ促す。
「‥今日はユウの誕生日でしょう?」
「、誕生日」
「日付が変わるまであと一時間。ギリギリだけどな」
「‥‥私、二日も眠ってたの‥?それに、これ‥パーティー‥?」
ユウの視線が皆から兄たち、ロニーさん、最後に私に向く。
「ずっと計画してたんだ。お前があんなことになってそれどころじゃなくなったけど‥」
「目が覚めたって聞いたら、じゃあやっぱり祝おうってことになってねぇ。店も今日は閉めちまったよ!」
セーナさんが豪快に笑う。それに続くように皆が口々に言った。
「計画中黙ってんの辛かったんだぜぇ?」
「お前隠し事下手だもんな!」
「う、うるせぇ!ランディこそユウを避けてたろぉ?」
「ユウが不安がっていると聞いて心が痛みました。ですが‥その様子だと計画は成功のようですね」
「マイザーさんはいつもと変わらなすぎなんですよ‥俺がパーティーの話しそうになった時のあの裏拳すげー痛かった‥」
ガヤガヤと広がっていく談笑にユウはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「、最近みんなが余所余所しかったのって‥これを隠してたから‥?」
「ああ。俺も口止めされていたからな」
「‥‥‥、」
実感が湧かないのか、動けないでいるユウに。
そっと背中を押してやるとユウは二、三歩進み俯き、スカートの裾を握った。
「ありがとう‥、みんな、大好き」
上げられた表情は笑みが溢れ、紅潮した頬が彼女の心情を表しているようだ。
皆がグラスを上げ彼女を祝い、つられたように笑う。
「それでは主役も登場したことですし‥皆さんグラスは持ってますね?」
「ほら、ユウとラックも」
「ユウの退院と18歳の誕生日を祝して‥乾杯!」
『カンパーイ!』
全員がユウにおめでとうと告げてから口にする。
ユウは至極嬉しそうに笑った後、必ず一瞬眉を下げるから。
いつか泣いてしまうのではないかとフィーロが笑った。
「ラックさん、もしかしてシェリルさんもこれ知ってたの?」
ぱたぱたと近寄ってきたユウに頷いて、先程受け取っていた手紙をさす。
ユウは慌てて手紙を開け、じっと読み始めた。
嬉しそうな表情から泣きそうに眉を寄せたりと忙しそうだ。
そのうち勢いよく私を見上げたと思えば、耳まで真っ赤にしてぱくぱくと口を動かすユウに。
「? ユウ?」
「あ、ぅ‥‥何でも、ない‥」
俯き手紙を元の通りにしまう。
一段落ついたところでロニーさんが箱を差し出したことで、それをきっかけに次々プレゼントが渡された。
ロニーさんからは帽子、フィーロとエニスさんからは香水、マイザーさんからは髪飾り、セーナさんからは蜂蜜の詰め合わせ、私からはネックレスを、そして。
「‥‥‥‥キー兄、ベル兄。これ、僕の部屋に置くの知ってて買ったんだよね?」
ユウの両手がギリギリ回るほどの、大きなクマのぬいぐるみ。
小声で問い掛けると、ベル兄が肩を震わせて笑っているあたりわざとなのだろう。
聞いていたフィーロは想像したのか、口を押さえて爆笑。
チラリとユウを見れば、嬉しそうに抱きしめている姿に。
「‥‥‥‥‥‥、」
何も言えるはずもなく、ため息をついて兄たちをジト目で睨んだ。
その後プレゼントも渡しきり、続いたパーティーは時計の針が真上を過ぎた頃終わりを迎えた。
「病み上がりなのに無理をさせましたか?」
「大丈夫です。何ともないし、すごく‥楽しかったです」
ありがとうございました、と満面の笑みで皆に頭を下げるユウ。
最後にマイザーさんの知り合いだと言う写真屋に、全員で並んだ写真を撮ってもらいお開きになった。
途中でドリンクを間違えてユウが酒を一口飲んだらしく、頬が紅潮している。
ユウは本当に酒が弱い。
「平気そうだな」
「フィーロ」
「つかお前‥ユウが鈍感じゃなかったらバレてるぞ」
呆れたように隣に並ぶフィーロに苦笑する。
確かについ先刻の車内で。フィーロに叩かれて初めて自分が彼女に見とれていることに気がついた。
「お前がユウ見てる時の顔、鏡で見せてやりたいよ」
顔?一体どんな顔をしていると言うのか‥無意識に眉を寄せれば、突然腕が引かれ思考が停止した。
「帰ろ?」
「‥‥そう、ですね」
自然と顔が綻ぶ。そうしてから、フィーロが言っていたのはこれのことだろうかと不意に思った。
「フィーロとエニスさんも乗っていきますよね?」
「おう‥‥ってお前、酒」
「飲んでませんよ。病み上がりなのに夜中歩かせるなんてするわけないでしょう」
「さすがラックだな!」
調子がいい、と苦笑すれば、フィーロにつられたようにユウが楽しげに笑った。
.