09.物語は少女を終末へと誘う
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***
“重なった偶然”としか言いようがない
なぜ、こうなってしまった
一体彼女が何をしたと言うのだろう?
「、ユウ」
ベッドに横たわる彼女には、擦り傷ひとつない。
それでも彼女の目蓋はきつく閉ざされたまま。
医者は“奇跡”だと言った。
暴走車に跳ねられ数メートル飛ばされたと聞いたはずなのに、骨が折れるどころか擦り傷すらないなど。
きっと看板がクッションになったのだろうと、彼らは自分たちを納得させるように口々に言っていた。
頭を打ったのか、ユウは目を覚まさない。
偶然とは何を指し、必然とは何を指すのだろう。
バイトが早く終わった事。あの道を通った事。ガイルが姿を現し、あの交差点を通りかかった事。人混みの中ユウを見つけた事。
どれか一つでも欠けていれば、こうはならなかったはずだ。
聞いた話だけでは結局、ユウが無傷な理由は分からず。
ただ彼女は、昏々と眠り続け。
あれから、丸一日が経とうとしていた。
「ラック」
病室に顔を出したフィーロとエニスさんがユウを覗き込み、悲しげに眉を下げる。
フィーロに視線で促され廊下に出ると、壁に背を預けながら「で?」とフィーロが私を見た。
「あの事件でガイルの身柄は警察へ行ってしまったので、奴の過去の余罪や問題を洗い出してルバニエ・ファミリーのドンに突き出して来ました」
「はっ、すげぇ」
「それを口外しない事と引き換えに、奴が世に出て来たあと奴の身柄は私たちに引き渡す事、奴に関しての干渉は一切しない事を約束しました」
背広の内ポケットから紙をヒラつかせる。この業界の“約束”はただの約束ではない。
破れば失うものは命だけでは済まないだろう。
「‥その身柄、引き取ったら俺にも一発殴らせろよ」
ユウが跳ねられたと聞いた時、視界が真っ暗になった。
病院でシェリルさんに全容を聞き把握した頃になって初めて、私は手に硝子の破片を握っていることに気がついて。
事務所に戻りデスクの上の粉々になったグラスを見て、やっと納得した。
シェリルさんも当初はかなり混乱していたらしいが、私たちより先に駆けつけていたロニーさんのおかげで落ち着いていた。
あれだけ落ち着いていなければ、あんなに要領を得た話は聞けなかっただろう。
「それロニーさんにも言われましたよ」
「ロニーさんや俺だけじゃなくて、うちの奴らもな」
小さく笑い、ふっとため息を吐く。
フィーロは私の肩を叩き、ドアに手を伸ばした。
「とにかく。交代な。お前まだ仕事あるんだろ?」
「ええ‥よろしくお願いします」
「おう」
病院を出て中折れ帽を深く被る。
明後日はユウの誕生日なのになぜこんなことになってしまったのか‥とシェリルさんが涙を零していた。
早く目覚めればいいと、皆が強く願っている。
彼女のいない部屋はあんなにも無機質だっただろうか‥そう思ってしまったのは、それだけユウの存在が大きくなっている証で。
昨日のユウの表情が脳裏に浮かび、私は頭を抱え大きなため息をついた。
「早く目を覚ましてください‥ユウ‥」
***
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