01.迷い込んだ少女は雨を嫌う
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***
――はあ、はあっ、
必死に足を動かした
後ろから追ってくる、闇から逃げて
――は‥っ、はあ、
《迷惑な話だ》
《あの“健気に頑張ってます”ってところが嫌みでしょうがない》
聞こえる声に耳を塞いで
胸の痛みに気付かないふりをした
――誰か、だれか助けて
ひとりはいやだよ
だれか‥
《‥大丈夫ですよ》
闇の中に浮かんだ後ろ姿
――‥ラックさん、
その姿にほっとした
追いかけて、追いかけて
掴んだその人は
『また、裏切ってやろうか』
忘れもしない、あの人だった――
***
「っ、」
体を起こすと、涙がシーツにぽたぽたと落ちた。
カチャ‥
気遣ったような小さな音に、私は涙を拭ってベッドを降りる。
「ラックさん、」
その背中を追いかけて玄関で言うと、ラックさんが振り返る。
「起こしてしまいましたか?」
私は申し訳なさそうにするラックさんに首を振って、
「‥いってらっしゃい」
見上げると小さく笑顔を返されて、あの大きな手で頭を撫でてくれた。
「行ってきます」
渦巻いていたものが、すっと消えていく。
私はラックさんの優しい手が好きだ。
部屋に戻るとカーテンと窓を開けて、ベッドに力なく腰を下ろす。
あれから1週間、私はいろんなことを教えてもらった。
ラックさんは優しい。だけど、ラックさんはガンドールファミリーというマフィアのボスらしい。
似合わない、と思ったけど口に出さずにいた私に、分かってしまったのかラックさんは『よく言われます』と困ったように眉を下げた。
フィーロさんもマルティージョファミリーというカモッラの最年少幹部で、二人は幼なじみなのだと聞いた。
ラックさんが仕事に行っている間、
私はエニスさんのところで英語を勉強するのが日課になっている。
でも今日は用事があると言うので、私は大人しく部屋でお留守番。
お昼過ぎ、英語の復習をしていた手を止めて、窓の格子の間から足を投げ出した。
「だめだ‥」
あの夢が頭から離れない
何度も声が反響して
その度に私は首を振った
大きく息を吐き出しながら、腕を格子に置いてその上に顎を乗せる。
「‥やっぱり、ここにはいられない」
このままじゃだめだ‥
本当はこうなる前に、離れなくちゃいけなかったのに
ひとりが寂しいなんて、思っちゃいけないのに
信じると言ってもらえたことが嬉しかった
嬉しくて、それでも信じきれない自分が醜くて、涙が出た
これ以上ここにいたら私は、あの優しさに甘えてしまう
「っ‥ごめんなさい‥」
空が青い‥
私の呟きは小さく、涙と一緒に空へと溶けた。
***
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