09.物語は少女を終末へと誘う
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「悪いね、また明日頼むよ」
「いえ、気を付けてくださいねマスター」
突然、マスターのお友達が亡くなったとかで今日はお店を閉めることになった。
15時前、私はシェリルさんとマスターの背中を見送り、最後に裏口の鍵を締める。
「ユウちゃん‥何かあった?今日元気なかったわよね」
「えっ‥」
「ああ、お客様には分からなかったと思うけど‥私がそう思っただけ」
ほっと息をつく。それでもシェリルさんには分かってしまったのかと苦笑した。
「大したことじゃないんです。ただ‥ちょっと自己嫌悪に陥ってたっていうか‥」
大丈夫です、と笑って見せると、シェリルさんはそれ以上深くは聞いて来なかった。
「ラックさん迎えに来るのよね?こんなに早く終わると思ってないだろうし‥ユウちゃんどうするの?」
ドキリと胸が鳴る。そうだった、伝えないと。
「んと‥じゃあ事務所に行ってみます」
しばらく歩いた街の交差点。
送ってくれると言ったシェリルさんの申し出はすぐそこだからと断った。
シェリルさんに手を振って、私が道路に視線を移した瞬間。
――キキィッ!
タイヤの擦れる音を響かせながら、私の体すれすれを通り過ぎた一台の車。
「っ‥ユウちゃん!」
あまりに唐突なことで呆然としていた私に、悲鳴のようなシェリルさんの声が届く。
「暴走車だ!」
「キミ!危ない!!」
響きだした悲鳴、エンジンとタイヤの音、そして。
全てがスローモーションのように、他人ごとみたいに思えた。
体が動かない。声も出ない。
ただ‥頭の奥で、あの記憶が私を引っ張ろうとしているのは分かった。
その朦朧とした意識の中で、向かって来る車の運転席を見て私は思う。
「ガイル‥」
違う、暴走車なんかじゃない。あれは確実に、私を狙ってるんだ。
「――ユウちゃん!」
重なって見えた。
景色も状況もまるで違うはずなのに。
通行人の悲鳴、そして大きな衝撃。
ああ、私は今度こそ死んでしまうのだろうか?
私はまだ‥ラックさんに何も言えてないのに
ありがとうもごめんなさいも、好きだってことも
何も伝えてないのに‥
揺れた景色。私が最後に見たのは、雲ひとつない青空だった。
**
「――――っ!」
ロニーが突然立ち上がった。
私を含め休憩を兼ね談笑していたフィーロたちが一斉に彼に視線をやった。
「ロニー、どうしたんです?」
「‥ロニーさん?」
瞬きすらしない彼に、私たちは顔を見合わせる。
「マイザー、ロニーはどうしたんだぁ?」
「こんなロニーさん初めて見ました」
私は二人に頷いて、ロニーの反応を待った。
「‥‥ユウ」
「‥?」
小さな呟きは隣にいた私にしか聞こえなかったらしい。
そのまま足早に店を出て行ってしまったロニーに二人が唖然としている。
私は彼が残した言葉に不安を残しながら、その背を見送った。
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