09.物語は少女を終末へと誘う
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――ガタン!
膝を付いてしまってから、近付いてくる足音に頭を振った。
「ユウ?大丈夫ですか?」
座り込む私に驚いたように膝を付くラックさんに苦笑を返す。
「そこに躓いちゃって‥」
「怪我は?」
首を振る私に安心したように頭を撫でて、手を引いて立たせてくれた。
‥最近、少しまずいと思う。
回数も増えているし、ただの貧血で誤魔化すのも限界がある。
思い出すのはいつも、あの事故のシーン。あの時の、跳ねられた瞬間の衝撃と一緒に意識が引っ張られる。
「ラックさん」
「ん?」
「‥なんでもない」
困惑したように首を傾げて頭を撫でてくれる。
その手はやっぱり、すごく優しくて。
「もし‥‥私が世界に帰ったら、ラックさんは楽になるよね」
「‥何を言ってるんですか?」
つい零れた言葉にラックさんが訝しげに眉を寄せる。
「、ごめんなさい。ただ、言ってみただけ」
へらっと笑って背を向けた私は、腕を取られて向き直され。
何かあったのかとラックさんの疑問に、ただ首を振った。
「‥また首を振る。貴女が質問に対して俯いて首を振るのが嘘を付いている時の癖だと‥気付いていますか?」
「っ‥そんな、ことっ‥」
「では私の目を見なさい。何か、あったんですか?」
そんなのずるい。
だって、私はその瞳には嘘なんてつけないのに。
‥それでも、これは言えない。
これだけは。
「わ、かんない‥」
「‥‥ユウ」
「何でもないっ‥」
言えない。――もしかしたら、元の世界に帰るのかもしれないなんて。
地を這うような低い声に、私は俯いて首を振った。
「‥そう、ですか」
するりと腕が離される。
思わず身を竦めた。ラックさんが‥見たこともないような感情のない瞳をしていたから。
「、あ‥‥ラック、さ」
「ああ、すみません。もう行きます。戸締まりお願いしますね」
スッと私を通り過ぎてしまったその背は振り返る事はなく。
ドアの閉まる音がやけに響いて、私はその場に力無く座り込んだ。
「‥違う、」
あんな顔をさせたかったんじゃない、そうじゃないのに。
あれからラックさんは何も言わないけど、ガイルが捕まっていないせいか必ず送り迎えしてくれる。
今日みたいに早く家を出る日は代わりにエニスさんが。
これ以上心配も負担もかけたくないのに‥言えるはずがなかった。
**
「‥‥あ、え?何、キー兄?」
突然デスクの上に資料を置かれて我に返る。
キー兄は資料のある一文をさして、自分の席に戻ってしまった。
「‥‥‥ごめん、すぐ直すよ」
いつもなら気付きそうな初歩的なミスに、自分に呆れながらペンを取る。
「お前がンなミスするなんて珍しいな。ユウと喧嘩でもしたか?」
喧嘩って‥‥そこまでじゃないけど、ベル兄ってたまにすごい勘発揮するよな‥‥嫌なタイミングで。
「違うよ。明日の取り立ての件考えてたんだ」
「あいつ‥逃げやがったらぶっ殺す!」
「ベル兄、殺したら金が返ってこなくなるよ‥」
話が逸れたことに内心ほっとしながら、直した資料を置きコーヒーを入れに席を立った。
キー兄がじっと見ていたが、気付かない振りをして部屋を出る。
「‥‥‥大人げない」
コーヒーの湯気を眺めながら、ふっと息をついた。
あの時、柄にもなく私はショックを受けたらしい。
彼女の初めての拒絶に。
間違いなく、彼女に不安を与えるような反応を残して来てしまった自信がある。
感情に敏感なだけに、彼女の反応が心配だ。
時計を見て、コーヒーを口にしてから私はもう一度ため息をつく。
今日は早めに上がるか‥
残りの仕事を思い浮かべスケジュールを立て、私は兄たちのコーヒーを手に部屋へ戻った。
***
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