08.少女の失敗は成功に終わる
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***
「押して、引く‥」
ユウが何か呟いたような気がした。
振り返ると、じっと私を見つめる瞳と目が合って。
「‥‥‥ユウ?」
「むー‥‥ラックさん、背大きいね」
「は?‥いえ、私は普通‥というよりユウが小さいのでは?」
「‥‥そっかぁ」
ぱたぱたとソファーに向かうユウに思わず眉を寄せる。
‥‥‥意味が、分からない。
ユウは元々会話の脈絡がないが、今回はオチすらない。
疑問を胸の中に仕舞いながら、私は背広を脱いでネクタイを緩めた。
「あっ‥」
もう一度振り向けば、目を輝かせて駆け寄ってくるユウ。
「今の、もう一回」
「今の?」
何のことか分からず聞き返すと、ユウは背伸びをして私のネクタイを戻す。
‥‥‥緩めろ、ということか?
いつものようにネクタイに人差し指をかけ緩めると、ユウは満足げだ。
「何です?」
「ん、あのね、ネクタイを緩める仕草ってかっこいいでしょ?」
‥同意を求められても。
ネクタイを外しきるとユウがそれを手に取り首にかけている。
こてんと傾げられた首。私を見ているその瞳はいかにも待っているそれだ。
「向かいから締めたことがないので‥」
後ろからネクタイを取る。
まるで抱きしめるような体勢に、私は頭を抱えたくなった。
「ここにこれを通します。‥そう、それを引っ張ったまま」
「わ‥できた」
鼻歌混じりに、一度解いて始めから結び直しているユウに問う。
「なぜ急に結び方なんて?」
「結んであげたいの。うちお母さんがお父さんのネクタイ締めてあげててね、ラブラブだったんだよ」
あれ羨ましかったの!と笑うユウ。
なんともユウらしい理由だが‥その男のために私が教えたのかと思うとそれはそれで‥
「ラックさんラックさん」
腕を引かれそのまま腰を折ると、首に通された感覚。
「完璧?」
キュッと首もとまで締められ、無邪気な彼女に私は面食らった。
「ええ、完璧です」
「やった‥‥ぁ」
ぱちり、と瞬きしたユウはすごい勢いで後退りし、赤くなったり青くなったり百面相状態。
「駆け引き忘れて楽しんじゃった‥っていうか、駆け引きってなにー‥?」
ぼそぼそと何か言っているが聞こえないうえに、声に出している自覚もないらしい。
訳の分からない彼女に耐えられず笑うと、それに気付いて拗ねたような視線が返ってきた。
彼女の言動に一々気持ちが揺さぶられていることに気づける内は‥
まだ自分を抑えられるのだろうと、苦笑するしかなかった。
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