08.少女の失敗は成功に終わる
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レジでお釣りを渡したのはさっきバラをくれたお客さん。
もう一度お礼を言うと、その人は手と首を振って。
「‥取っちゃったんだね、似合ってたのに」
「ぇっ‥あ、あれは、恥ずかしくて‥」
「っ‥‥そ、う。でも、キミならバラだけじゃなくて他のも似合うと思うよ」
持っていた花束を渡される。私が口を開く前に、その人は「ごちそうさま」と手を上げてお店を出て行ってしまった。
「‥はえ?これ、え?」
「ヒュー、彼やるーっ!」
「‥‥‥‥」
これ、もらっちゃってよかったの‥?
でもどうしよう、確か家には花瓶とかなかった気がする。
「ラックさんラックさん、お客さんユウちゃん目当ての人結構いるのよ?」
「え?」
「最近めきめき綺麗になってるしね?‥恋のおかげかしら」
「シェリルさんっ」
「‥それは‥‥妬けますね」
「でしょ?ユウちゃんたらモテモテ~!」
「シェリル‥」
恥ずかしさにむつけたように花束を抱きしめる。
私は一度奥に入っていたマスターを追いかけて、花瓶を借りた。
「ユウちゃん、持って帰らないの?」
「確か家に花瓶なかったなーって思って‥ないよね?」
「‥ありませんね。帰りに買ってもいいんですよ?」
私は首を振って、花を花瓶にさす。
「マスターには許可とったし、休憩室の窓際に置かせてもらおうと思って‥」
「あそこなら日当たりもいいものね」
笑顔を返して、花瓶を窓際に置いた。
私はあまり詳しくないけど、お母さんはお花が好きだった。
二人のお墓参り行きたいなぁ‥
「えーっ!?」
大声にびっくりしてカウンターに戻れば、両肩を掴まれて凄むシェリルさんに返事すらできず。
「ユウちゃん、二週間後誕生日なの!?」
「ふえ‥?」
頷くとシェリルさんは何やらぶつぶつ言い出して、ラックさんにコソコソ話している。
「ジルさん‥?」
「あー、うん‥シェリルはああなったら止められないんだ」
ひとしきり頷いたかと思えばシェリルさんはにっこり振り返って、私に言った。
「とりあえず‥一週間後ユウちゃん休みよね?お店もお昼までだし、お昼過ぎにここ集合ね?」
「‥‥へ?」
**
「ラックさん、シェリルさんと何話してたの?」
帰宅後、鍋をかき混ぜながらカウンター越しに声をかける。
ラックさんは「内緒です」と笑って、私は再び唇を尖らせた。
「‥‥ユウ、いつもああなんですか?」
「? ああ‥って?」
「いや‥」
それから口を閉ざしてしまったラックさんに首を傾げる。
お皿に取って味見をして、いい味に一人頷いた。
「あ、お花のこと?お花もらったのは初めてかも。‥あ、でも、たまに珈琲とか多く頼んで私の分ってくれる人もいる‥かな?」
シェリルさんもよくそういう場面を見る。気立てのいいお客さんが多いのかな?
「外国の人って、みんなあんなに‥えーっと‥フェミニスト?なの?」
日本人では考えられないよ‥
火を消して、お皿を取り出そうと伸びをすると。
「ん、ありが‥」
いつの間にか後ろに来ていたラックさんの手が私の追って見えて。
お皿の手前で、私の手を取った。
「‥ラックさん?」
「もっと‥警戒してください」
「え?」
「その客も、‥‥私のことも」
後ろ向きで手を押さえられているから顔が見えない。
だけど‥小さくなった声はひどく切なげで。
‥そっか。この間みたいなことが起きたら、また傷つくのはラックさんなんだ‥
「‥あのね、大丈夫だよ?私人見知りだからお客さんの前だと気張っちゃうし、あとは、えっと‥気をつけます!」
「‥‥‥」
「あ‥でもラックさんを警戒するのは‥どして?‥‥はっ、こうして知らない間に後ろにいたりするから?」
それって警戒したら分かるもの‥?
うんうん唸っていれば、手が離されたあと頭をくしゃりと撫でられて。
「皿、これでいいですか?」
「はえ?あ、うんっ」
何だったのか聞こうとしたけど、結局なんとなく会話は流れて聞くことはできなかった。
***
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