08.少女の失敗は成功に終わる
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***
「――ちゃん、ユウちゃん?」
はっと意識を戻せば、シェリルさんが顔をのぞき込んでいる。
「ぼーっとして‥大丈夫?私的にはぽわっとしてて可愛かったけど」
「シェリル、なんか‥それどうなの‥?」
「え、だめ?ジルは思わない?」
まただ。つい考え込んでしまった。
「ごめんなさい、ちゃんと集中します」
「ああ、今はお客さん少ないしいいんだけど‥さっきも目眩起こしてたし本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です。私貧血持ちだから、たまにあるんですああいうの」
最近、変に元の世界のことを思い出す。
フラッシュバックするように、最後は決まって私が跳ねられたシーン。
貧血持ち、なんて嘘。
だけどああでも言わないと心配も迷惑もかけてしまうから。
頭に流れる景色に揺さぶられて目眩を起こしてる‥なんて、それこそ言えない。
でも‥‥どうして‥
考えてみれば、突然飛ばされたんだから突然帰ることもあり得る‥のかな‥?
私は首を振って、考えるのを止めた。
今は仕事に集中っ。
「ねぇ‥ジル。最近増えたと思わない?若い常連さん」
「ああ‥うん、確かに‥。ユウちゃんこれ3番のお客様にお願い」
「はい」
二人の会話に首を傾げつつ、トレイにカップを乗せる。
「‥‥あの子の影響だよね?」
「でしょうね‥皆目で追ってるもの。気付いてないあたりユウちゃんらしいけど」
そんな会話がされているとは知らず、頭を下げてテーブルを離れてようとすると足元に何かが落ちた。
‥赤いバラ?
拾い上げて落とし主であるその席の男の人に差し出すと、男の人は少し慌てて。
「よかったら‥そのバラはキミに」
「え‥?」
「その綺麗な黒髪に、赤が良く映えそうだから」
席には色とりどりの花束が置いてある。
偶然落ちてしまったとはいえ、もらってもいいのかな‥?
それにしても、男の人にあまり免疫のない私としては外国人男性の甘い台詞が慣れない。
今までも何回かあったけど、社交辞令というかコミュニケーションというか、日本ではキザな言葉もここでは当然のようだ。
「あ、の‥ありがとうございます」
綺麗なバラに思わず笑みを零す。私は頭を下げてからカウンターに戻った。
「‥あの花束、彼どうするのかしらねぇ‥」
「‥持って帰るんじゃない?」
「こんなに分かりやすい攻めも効かないなんて‥手強いわ」
「‥‥シェリル、ユウちゃんのこと好きだよねぇ」
何の話をしているのか二人とも何となく遠い目をしてる。
私が首を傾げると、シェリルさんがバラを私の髪にさして遊びだした。
「ほんと、黒髪によく映えるわ。‥あ、マスター休憩終わり?じゃあ私とユウちゃん休憩ね!」
手を引かれて奥に入ると、椅子に座らされて数分。
抵抗も虚しく、なぜか髪をいじられて棘を取ったバラを髪にさされた。
大部分を残して外の方の髪だけを掬って左耳の辺りで小さなお団子。
そこに添えるようにバラをさして、シェリルさんは満足そうだ。
「マスター、ジル、見て?ほらほら可愛いでしょー」
恥ずかしいと逃げようとする私の腕を引いて、休憩室から引っ張り出された。
「ほう‥綺麗だ」
「うん、可愛い。シェリルもこんな短時間で‥器用だねぇ」
「ユウちゃんの髪柔らかくてやりやすかったわ。なんか全力でお洒落させたくなっちゃった。ユウちゃん今度うちにおいで?」
うんっと可愛くしてあげるから!
と生き生きとしているシェリルさんに圧されて頷く。
お洒落は私も好きだけど、どうしても恥ずかしさは抜けず顔は熱いままだ。
カラン、とベルがなって新たなお客さんに振り向くとそこにいたのは。
「あら、ラックさん!見て見て、ユウちゃん可愛さ倍増でしょ」
「っ~シェリルさん!」
「よく見せてください」
抗議しようとシェリルさんの方を向きかけた時。
するり、とラックさんの手が頬と耳を掠め、バラに触れて。
「‥そうですね。良く似合っていて可愛いですよ、ユウ」
‥撃沈。真っ赤になった顔を隠すようにカウンターにうつ伏せると、ラックさんがクスクスと笑っていた。
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