07.少女は様々な想いに混乱する
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「なるほど‥社長はお前を買って情報を交換したってことか」
「‥それにしても無鉄砲すぎます」
「確かになぁ‥俺はそういうヤツ嫌いじゃねぇけどな」
ベルガさんが私の髪を掻き回す。ラックさんの様子が気になって視線をやれば、考え込むように眉を寄せていて。
「‥だって、」
絞り出すような震えた声にみんなが私を見る。私はスカートをギュッと握って、浮かんでくる涙に耐えた。
「怖かった、から‥っ、ただ待ってるなんて、できなくて、」
「‥ですが以前、危険なことはしないと約束しましたよね?今回の行動がどれだけ危険か‥あなたにも分かっていたでしょう」
分かってた
そんなの分かってたけど、
「でも‥‥待ってたって、必ず帰ってくるかなんて分からないもん!」
全員が目を見開く。ポタポタと伝っていく涙を拭い、呼吸を飲み込みながら俯いた。
私は雨が嫌いだ
両親はあの雨の日、すぐに帰って来るからって、そう言って家を出たのに
いくら待っても来なくて、待ち続けて、やっと戻ってきたのは
冷たくなった母と、今にも息絶えてしまいそうな変わり果てた父
「‥だから、出来ることをしたかった‥っ、何もしないで、ただ待って失うのはもう嫌だよ‥!」
感情がコントロールできない。
言葉は掠れて、悲鳴みたいになってしまって。
その場にぺたりと座り込むと、ケイトさんが横から肩を抱くように抱き締めてくれた。
人の動く気配に視線を上げれば、私の前にラックさんが膝をついて。
頬を包んだ大きな手が涙を拭った。
「‥最近は雨続きでしたね。ですが‥だからと言って重ねる必要はないんですよ」
大丈夫だと言い聞かせるように、ゆっくり言葉が紡がれる。
「いいですか、ユウ。これだけは覚えていてください」
ラックさんは頬を包んだまま、優しく目尻を拭った。
「晴れの日も雨の日も、私は必ず帰ります。不安になる必要がない理由は昨日言いましたよね?」
不老不死‥じっと視線を合わせたまま小さく頷く私に、満足したように手を下ろしたラックさん。
「もしそれでも不安なら、エニスと待てばいい」
フィーロさんの言葉に振り返って、ラックさんが思い出したように立ち上がる。
「エニスさんにも後で挨拶に行きますので言っておいてください。心配してくださったようですし」
「ああ、分かった」
「‥自意識過剰じゃねぇのかそりゃ」
「‥‥‥」
「‥別に“僕を”とは言ってないでしょベル兄。ユウを心配してたって意味!キー兄もそんな目で見るのやめてよ‥」
皆が笑って雰囲気が明るくなった。
私はそんな雰囲気にじんわりと心が温かくなるのを感じながら、再び出たラックさんの話し方に興味を引かれる。
‥‥やっぱり、何度見ても。
「ユウ、どうかしたか?」
頭にぽんと手を乗せながら覗き込んでくるフィーロさん。
私は裾を引いて、内緒話するように手を添えた。
「あ?何してんだ、お前ら」
話している途中でベルガさんに気付かれてしまった。
その視線を追うように向けられたラックさんの表情は訝しげで、なぜかフィーロさんは体を震わせている。
「ぶはっ‥ははははっ!」
終わった途端お腹を抱えて大爆笑のフィーロさん。
‥‥‥なんで?
隣にいて聞こえてしまったらしいケイトさんまで笑っている。
「どうしたんです?」
「ひ‥ユウ、お前、さっきの言ってやれよ」
‥‥フィーロさん笑いすぎだよ?
それにこれ内緒だったのに‥三人の視線は私を捕らえていて、言わざるを得ない状態だ。
「‥あの、ね」
ちらりと視線だけを上げてすぐに手元まで逸らす。
「二人といるときのラックさん、末っ子で、その‥可愛いなあって思って」
「‥‥‥‥‥はい‥?」
「ぶっ‥ぎゃはははっ!」
“末っ子で”の説明は難しい。
でも二人と一緒にいるときのラックさんは、どう見ても末っ子なのだ。
爆笑している二人と、無言だけど優しい目をしているキースさん夫妻と、固まって動かないラックさん。
私はやっぱり言わなければよかったと少し後悔した。
「可愛いってキャラじゃねぇ‥!」
「よかったなラック!」
ばしばしと肩を叩かれるラックさんはなんだか少し拗ねたようにも見える。
「わっ」
「‥そんなに見ないでください」
視界が真っ暗になったのはラックさんの手が塞いだから。
その手を掴んでじたばた暴れると、隙間から見えたラックさんはほんの少し顔が赤くなっているような気がした。
「ふふ、賑やかね。夕飯は食べて行くでしょう?今日は大人数だから作り甲斐があるわ」
クスクスと口元に手を当てたケイトさん。
私が手伝いを申し出ると、嬉しそうにキッチンに案内してくれた。
その後もひたすらからかわれて、ラックさんが不機嫌だったのは言うまでもなく。
‥そして私がここにいる全員が不死者だと知るのは、食事を終えたあとのお話。
***
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